東洋史研究叢刊
東洋史研究叢刊のリニューアルにあたって(夫馬 進) | 東洋史研究会
体裁:A5判 上製(叢刊之六十三〜), A5判 上製函入(叢刊之六十二まで) 配本間隔:不定期
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東洋史研究叢刊のリニューアルにあたって
夫馬 進(東洋史研究会会長・京都大学教授)
東洋史研究叢刊の第1冊である宮崎市定『九品官人法の研究』が発行されたのは、1956年のことである。当時その発行元であったのは、商業出版社でも大学出版局でもない一学術団体、すなわち京都大学文学部東洋史研究室に本部を置き、学術雑誌である『東洋史研究』を編集発行していた東洋史研究会であった。東洋史研究会は、創刊以来60年以上に及ぶこの『東洋史研究』の発行を中心的な事業としつつ、東洋史研究叢刊の選定と出版をも重要な事業の一つとして位置づけている。
この叢刊を発行する目的は、アジア史に関する優れた研究成果でありながら、商業出版のベースに乗りにくいものを世に送り出そうというものであり、この点ではその出発から現在に至るまで変わっていない。『九品官人法の研究』はそののち日本学士院賞を受けたほどの学術書ではあるが、中国史についての基礎的教養を持つものであれば誰でも理解しうるものである。いまでこそそれは『宮崎市定全集』や中公文庫によって誰もが簡単に手にすることができるものになっているが、発行当時は商業ベースに乗りにくいものであった。言うまでもなくそれは研究者を第一の読み手として書かれたからである。
東洋史研究叢刊は現在、合計62種のものが刊行されており、近年出版されたものはすべて特定のテーマにそって書かれた研究書である。さきに掲げた宮崎の著書は書きおろしであるが、ほかのほとんどすべてはもともと学術雑誌に個別に掲載された論考について、一つのテーマで再録・編集したものである。昨年出版された島田虔次『中国思想史の研究』がその一例である。再録にあたっては、一部を書き改め何章かを新たに加えることによって、現時点での学会の最高水準を目指すことにしている。しかし学術雑誌は普通、一般の図書館は言うまでもなく大学の図書館ですらそろっていない。この点、優れた論文を再録する東洋史研究叢刊は、西洋史や日本史の研究者、あるいは学部学生や大学院生にとって利用しやすいだけでなく、東洋史の研究者にとっても大いに役立っている。
東洋史研究叢刊はその出発以来、幸い日本のみならず世界の学会の信頼を受けたらしく、たとえばアメリカにおける主な大学図書館であれば『東洋史研究』とともにだいたい置いてあるようである。この叢刊は、アジア史研究の中でもとくに中国史研究に重点を置いている点に特色があり、ここ半世紀における日本での研究成果の重要な一部を占めてきた。この度、現在の版元である京都大学学術出版会により、学部学生などにも入手しやすい価格の実現と装丁の一新によって、より幅広い読者層の利用が容易になることは誠に喜ばしい限りである。今後とも中国史研究を中心としつつ、アジア史全般にかかわる叢刊とすべく、一層の充実と進展を図ることにしている。
*2003年当時の文章です。
*『東洋史研究』の入手につきましては、東洋史研究会へ直接お問い合わせください。