ホーム > 書籍詳細ページ

地域研究叢書 27

メコンデルタの大土地所有

無主の土地から多民族社会へ フランス植民地主義の80年

高田 洋子

菊上製・466頁

ISBN: 9784876984794     正誤表(2014.4.8更新)PDF

発行年月: 2014/03

  • 本体: 5,400円(税込 5,940円
  • 在庫あり
 
  • mixiチェック

内容

二〇世紀、戦争の舞台だったメコンデルタ。元々は無主の土地が、フランス植民地政府によって巨大な開発地となり、不在地主と先住クメール人、労働力として流入したベトナム人が織り成す社会が引き起こした矛盾。これこそが、紛争の火種だった。社会主義下では禁忌とされた大土地所有制を初めて研究し、 メコンデルタの社会構造を炙り出した快著。

書評

『東南アジア研究』52-2(2015年1月)、343-345頁、評者:水野明日香氏
『アジア経済』Vol.56 No.2(2015年6月)、117-121頁、評者:高橋塁氏

プロフィール

髙田 洋子(たかだようこ)
敬愛大学国際学部教授
専攻:ベトナム近代経済史,国際関係史
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒,津田塾大学大学院国際関係学研究科博士課程修了。
東京外国語大学アジア・アフリカ研究所共同研究員,千葉敬愛短期大学国際教養科専任講師,敬愛大学国際学部助教授を経て,2002年より現職。
国際関係学博士(津田塾大学)。

主要著作
『メコンデルタ フランス植民地時代の記憶』新宿書房,2009年
「戦争と社会変動:メコンデルタの大土地所有制崩壊に関する一考察」『アジア・アフリカ研究』第50巻第3号,2010年
「開発と社会変動」『地域研究の課題と方法―アジア・アフリカ社会研究入門/実証編』(共編)文化書房博文社,2006年
「インドシナ」『植民地経済の繁栄と凋落』加納啓良編(岩波講座/東南アジア史6),岩波書店,2001年
「メコン・デルタの開発」『変わる東南アジア史像』池端雪浦編,山川出版社,2001年(1994年刊3刷)ほか

目次

口絵
巻頭地図
図一覧/写真一覧/表一覧
凡例

第1章 土地は誰のものか,その根源的問いを求めて ―メコンデルタ研究の意味
第1節 アジア近現代史のホットスポット―分析の視角
 1. 無主の土地から巨大な不在大地主制へ―問題意識と研究の方法
 2. 近代法の導入,外貨獲得とコメ輸出,土地分配の実態―本書の構成
 3. フランスによるインドシナ支配―歴史的背景
   (1)ベトナム人と土地
   (2)インドシナ侵略の端緒
   (3)「仏領インドシナ連邦」の成立
   (4)メコンデルタにおける植民地体制の絶頂期とその崩壊過程
 4. 大土地所有制の研究はなぜ等閑視されたのか―仏領期メコンデルタ農村研究の周辺
第2節 法と植民地主義
 1. 前近代ベトナムの法―嘉隆法典とその「近代的評価」
   (1)夫婦家産制および財産相続法・刑法および保障制
   (2)前近代社会の法をめぐる評価
 2. フランス近代法の導入―伝統的統治形態の温存と新たな国有地払い下げ制度
   (1)仏領コーチシナの土地法
   (2)徴税と村落統治法
   (3)インドシナ住民の法的地位と慣習法の立法化

第2章 コメと植民地主義
第1節 東南アジアのモノカルチャー化とコメ需要の増大―インドシナ貿易のなかのコメ輸出
 1. インドシナ植民地関税政策の変遷と機能
   (1)自由主義的自主関税制度から保護主義的同化関税制度の導入へ
   (2)同化関税制度の影響
 2. インドシナの貿易構造とコメ輸出
   (1)インドシナ貿易の概要
   (2)地域別貿易収支
第2節 メコンデルタのコメと海外市場
 1. コメ輸出貿易の発展
   (1)コメ輸出量の推移
   (2)輸出米の形態別変化
 2. 主要な輸出市場とその変化
   (1)時期区分ごとの市場の推移
   (2)コメ輸出をめぐる関税政策の影響と限界
   (3)英領ビルマ米,タイ米との比較
第3節 アジア市場から分離されるインドシナ―フランス植民地主義のビジョンと矛盾

第3章 植民地統治下のメコンデルタ水田開発―土地の分配システム
第1節 仏領コーチシナの土地制度と水田開発
 1. フランス占領当初の所有地の確定
   (1)占領,土地没収
   (2)地簿Dia bo(Dia ba)の再興
 2. 土地登記令の強化
 3. 国有地払い下げ制度の確立
   (1)1860年代および1870年代
   (2)1880年代―1913年
 4. 19世紀末までの水田開発の進展
   (1)水田面積の増大
   (2)小規模払い下げ申請の活発化
   (3)ミトー省の土地所有の事例
   (4)ヨーロッパ人への払い下げと開発
第2節 メコンデルタ西部開発の本格化―20世紀初頭の国有地払い下げ
 1. 幹線運河の掘削
 2. 国有地払い下げの実態
   (1)1899―1907年の期間における払い下げ認可令の事例
 3. デルタ西部の水田開発
   (1)稲作地域の拡大
   (2)新開地の開墾
   (3)フランス人の水田
第3節 巨大地主化と農業不安の増大―大戦間期の国有地払い下げ
 1. 国有地払い下げ制度の展開
   (1)1913年の統一令
   (2)実施上の問題点と改訂,“成果”
 2. 開発と土地集積
   (1)1920年代半ばの開発ブームと大土地所有の実態
   (2)世界恐慌の打撃とメコンデルタにおける農業不安
 3. 1930年代における国有地払い下げの実態
   (1)欧州人
   (2)現地人
   (3)欧州人と現地人の総計
第4節 「無主地」の国有化と払い下げ制度がもたらしたもの

第4章 巨大な土地集積とその担い手たち―バクリュウ省の事例研究
第1節 植民地支配とバクリュウ地方
 1. バクリュウ省の創設(1882年)
   (1)バクリュウ略史
   (2)住民構成
   (3)村の創設と統廃合
 2. 19世紀末から20世紀初頭の農村の生産活動
   (1)納税にみる人びとの生業
   (2)耕地の等級別面積
 3. 農村の土地所有構造と新しい土地集積
   (1)土地所有の3類型
   (2)“ヨーロッパ人”による土地取得のブーム
第2節 バクリュウ省の開発ブームと国有地払い下げ
 1. 開発時代“mise en valeur”の到来
   (1)運河の掘削と水田開発
   (2)バクリュウ省の土地所有状況
 2. 国有地払い下げと大土地所有制の成立過程
   (1)バクリュウ省における両大戦間期の払い下げ状況再考(1929―1941年)
   (2)大規模払い下げの実態分析(1897―1941年)

第5章 開拓のなかの農村―植民地期の社会変容と諸民族
第1節 広大低地氾濫原の開拓史―トランスバサックの運河社会
 1. カントー省大運河周辺の臨地調査
   (1)調査村の決定
   (2)トイライ村とその周辺―ベトナム人の屯田村
   (3)自然河川と運河
 2. 文献にみるトイライ村の開拓
   (1)トイライ行政村の成立
   (2)20世紀初頭の開発“mise en valeur”と停滞
 3. 集落の形成,開拓過程―開拓・入植に関する聞き取り調査から
   (1)自然河川支流域
   (2)運河周辺
 4. 農業制度―「余剰米」の生産様式
   (1)タディエンの耕作
   (2)不在地主と仲介監督者
   (3)日雇い農業労働
   (4)大土地所有の実態
第2節 海岸複合地形の砂丘上村落―先住クメール人古村へのべトナム人の進出
 1. チャヴィン省の農業社会
   (1)自然と稲作
   (2)民族分布
 2. ホアトゥアン村周辺の自然と農業
   (1)地形と土壌
   (2)土地利用
   (3)集落の形成と民族分布
 3. 多民族社会の形成と開拓
   (1)行政上の村落統合
   (2)植民地期の民族と開拓
 4. 土地集中とその解体
   (1)植民地期チャヴィン省の土地所有
   (2)独立戦争の帰結
第3節 大土地所有と社会変容―解放戦争を準備したもの

終章 大土地所有制と多民族社会の変容―メコンデルタの社会構造の歴史的理解のために
 1. 大土地所有制成立の国際的背景
 2. 水田開発の進展と土地分配,大土地所有制の成立
   (1)土地制度の確立と19世紀末までの水田開発―小規模払い下げの展開
   (2)20世紀初頭の水田開発と国有地払い下げの新しい段階(―1920年代)
   (3)世界恐慌の影響と1930年代の国有地払い下げ傾向
 3. 大土地所有制の成立と国有地払い下げ―20世紀バクリュウ省の開発
 4. 村落からみる開拓と大土地所有
   (1)トランスバサックの開拓村
   (2)クメール人の古村とベトナム人の進出,大土地所有

*****
[史料] タディエンの日常世界―聞き書きの集成
バサック川を越えた人びと(カントー省)
 1. 一族の家譜から
 2. 氾濫原のなかの村
砂の微高地に暮らす人びと(チャヴィン省)
 1. 砂地の林とクメール人の伝統
 2. ホアトゥアン村のクメール人とベトナム人,華人

 引用・参考文献一覧
 あとがき
 索 引
このページの先頭へ