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ゼウスの覇権[改訂版]

反逆のギリシア神話

安村 典子

A5上製・432頁

ISBN: 9784814005505

発行年月: 2024/07

  • 本体: 4,800円(税込 5,280円
  • 在庫あり
 
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内容

ギリシア文学の嚆矢とも言うべきホメロスの『イリアス』において、ゼウスは「神々の父」としてオリュンポスの神々を圧倒的な力でその支配下においている。オリュンポス諸神はゼウスを頂点とする家父長的な支配構造のもとに統合され、ゼウスの権力は盤石なものと考えられていたようである。しかし、ミュケナイ時代の線文字B文書によれば、ゼウスが他の神々に勝る最上位の地位を得ていたという証拠は見いだせない。むしろ、そこで特権的な地位を確保しているようにみえるのはポセイドンである。ミュケナイ時代以後において、いかにしてゼウスは覇権を確立するに至ったのか。本書はその謎に迫る。

プロフィール

安村 典子(やすむら のりこ)

1945年 東京都生まれ。
国際基督教大学卒業、京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、ケンブリッジ大学修士課程修了。M. Phil.(ケンブリッジ大学)。ロンドン大学大学院博士課程修了。PhD(ロンドン大学)。元金沢大学教授。

主な著作
Challenges to the Power of Zeus in Early Greek Poetry, Bristol Classical Press, 2011, Bloomsbury Academic 2013,『古典解釈と人間理解』(共著、岡野昌雄・田中敦共編、山本書店、1986年)、『ムーサよ、語れ――古代ギリシア文学への招待』(共著、川島重成・高田康成共編、三陸書房、2003年)、『ホメロス『イリアス』への招待』(共著、川島重成・古澤ゆう子・小林薫編、ピナケス出版、2019年)、他。
翻訳として、J. チャドウィック『ミュケーナイ世界』(みすず書房、1983年)、R. ヒンクス『古代芸術のコスモロジー――神話と寓意表現』(共訳、平凡社、1989年)、『エウリーピデース断片』(共訳、ギリシア悲劇全集12、岩波書店、1993年)、A. リーベラーリス『メタモルフォーシス――ギリシア変身物語集』(講談社文芸文庫、2006年)、『アリストパネースIV』(共訳、ギリシア喜劇全集4、岩波書店、2009年)。

目次

凡 例


 覇権への道
 パンヘレニズム
 近東地方からの影響
 神々の争い――各章の概要
 叙事詩における語りの手法

第一章 女神テティスの権能
1.テティスの嘆願
 テティスの言葉
 アキレウスの話――縛られたゼウス
 テティスの主張
2.ポイニクス――『イリアス』における父と子の相克の例として
3.テレマコス――『オデュッセイア』にみられる父と子の相克の場面
 弓競技
 テレマコスによる弓競技への参加
 テレマコスが語ったこと
 『オデュッセイア』の中に「父と子の相克のモチーフ」を見る
 2羽の鷲の話
4.ペレウスとアキレウス
 テティスを養育したヘレ
 ゼウスとテティスの結婚
 ゼウスとヘレ(並びにその他の神々)との対立
 ペレウスとテティスの結婚
 アキレウスとペレウス
 『イリアス』第24歌にみられる父子の相克の新しい受容

第二章 ヘレの黄金の鎖
1.『イリアス』における神々の束縛
 ヘパイストス
 アレス――「巨人族との戦い」(ギガントマキア)との関連において
2.ヘレを縛った黄金の鎖
 鉄敷
 互恵関係
 見せしめ――抑止効果としての縛り
3.黄金の鎖の事件とヘラクレスの関係――失われた叙事詩『メロピス』
 失われた叙事詩『メロピス』とヘラクレスによるコス島遠征
 ヘラクレスのプレグラ遠征
 『ギガントマキア』におけるヘラクレスの役割
 ヘレとギガンテス
 ポセイドンと大地との関わり――ポセイドンのクトニックな性格
 失われた叙事詩『ギガントマキア』(巨人族と神々との戦い)の再構築

第三章 兄弟神ゼウスとポセイドン
1.ゼウスとポセイドンの対立
 ポセイドン
 綱引き
2.憤りのモチーフ――『イリアス』15.47―235
 ゼウスの憤り――他の神々に向けられるゼウスの敵対心
 ポセイドンとアキレウス
 ポセイドンの屈服
3.ゼウスによる宇宙秩序の構築――『イリアス』20.54 ―74;21.385―520
 神々の争い
 神々の戦いの終結

第四章 女神アテネの誕生
1.近東地方にみられる主権交代神話とヘシオドスの『神統記』
 フルリ神話
 バビロニア神話
2.ゼウスの目論見――勝利への道
 ウラノス
 ガイア
 予言
3.アテネの誕生
 メティス
 メティスの子供たち――アテネと、生まれることのなかった息子
 アイギス

第五章 予知の神プロメテウス
1.『神統記』に語られるプロメテウス神話
 『神統記』に登場する人類
 イアペトスの息子
 『神統記』におけるプロメテウス神話の文脈
 『神統記』521―616にみられるプロメテウス神話の語りの手法
2.プロメテウスの敗北
 プロメテウスの名前
 プロメテウスと人類――人間の起源
3.エルピス
 プロメテウスの敗北

第六章 ヘレの息子テュポン
1.『アポロン讃歌』にみられるモチーフ
 『アポロン讃歌』の梗概
 テルプウサ
 クリサの雌蛇
2.ダイグレッションとしてのテュポン物語(305―355)
 テュポン
 ヘレ
 テュポンの挑戦
3.本讃歌の冒頭部分の問題

第七章 デメテルとイアシオン
1.三たび鋤き返した豊かな畑で
 『オデュッセイア』5.125―128
 イアシオン
 近東地方の豊穣神と年毎に生と死を繰り返す青年神
 ミュケナイ時代のギリシアにおける受容
2.ホメロス風讃歌『デメテル讃歌』
 『デメテル讃歌』(第2歌)
 デモポン
 ペルセポネ
3.ゼウスの計略――ゼウスとデメテル
 ゼウス――デメテルの夫
 ゼウス――死と再生の神
 エレウシスの秘儀
 大地母神と青年神の信仰

第八章 アプロディテの悲しみ
1.女神と青年の恋愛
 苦い悲しみ
 ガニュメデスとティトノスの物語
2.アプロディテの悲しみ
 アプロディテの起源
 ギリシア詩におけるアプロディテ
 ホメロスにおいて弱小化されたアプロディテ
 ゼウスとアプロディテ
 アプロディテの権能
3.本讃歌冒頭部分に語られている三柱の女神たち
 オリュンポスの女神たちの力関係
 主権維持のためのゼウスの戦略

結 び

あとがき
参考文献
索引(固有名詞/事項/出典) 
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