ホーム > 書籍詳細ページ

統治されない技法

太湖に浮かぶ〈梁山泊〉

太田 出

A5上製・532頁

ISBN: 9784814005239

発行年月: 2024/03

  • 本体: 5,500円(税込 6,050円
  • 在庫あり
 
  • mixiチェック

内容

中国の太湖周辺に存在するもうひとつのゾミア——「網船鬼」と呼ばれ蔑視された歴史をもつ「統治しがたい人びと」。歴史から漏れた漁民たちの生活実態を現地調査によって探りながら、新たな地域社会論の構築を目指す。

書評

「図書新聞」2024年8月31日、評者:藤川美代子氏

プロフィール

太田 出(おおた いずる)
1965年 愛知県に生まれる
1999年 大阪大学大学院文学研究科博士課程修了
広島大学大学院文学研究科をへて
現在 京都大学大学院人間・環境学研究科教授、博士(文学)

主な著作
『中国近世の罪と罰――犯罪・警察・監獄の社会史』(名古屋大学出版会、2015年)
『関羽と霊異伝説――清朝期のユーラシア世界と帝国版図』(名古屋大学出版会、2019年)
『中国農漁村の歴史を歩く』(京都大学学術出版会、学術選書、2021年)
『北支宣撫官』(えにし書房、2023年)

目次

   口 絵
   凡 例
   本書のタイトルに関する前言
   参考地図

序 章 太湖流域の「網船鬼」とは何者か?
   一 はじめに
   二 理論的枠組み
      ――ピエール・クラストル、ジェームズ・C・スコット、クリスチャン・ダニエルス
   三 研究方法
   四 太湖流域を中心とした湖上民研究の現在
   五 東・東南アジアにおける非定住の水上民に関する研究
   六 本書の目的と構成

第Ⅰ部 明清・民国期の太湖流域と船上生活漁民

第一章 「湖寇」「湖匪」「湖賊」――“梁山泊”に集う人びと
   一 太湖流域の自然・社会・経済環境
   二 歴史文献のなかの「湖寇」「湖匪」「湖賊」の活動
   三 清代における湖上民の漁撈と犯罪
   四 太湖流域の湖上民と幹線水路の警備
   五 太湖流域の「統治しがたい人びと」――二〇世紀の梁山泊
   六 おわりに――フィールドワークから湖上の世界に迫る
第二章 湖面の占有、ローカル・コモンズ、オープン・アクセス
   一 「避難地帯」としての太湖流域と湖面をめぐる権利関係
   二 中近世(宋~明代)における内水面漁業と権利関係――中村治兵衛の研究を中心に
   三 清代・中華民国期の太湖流域における内水面の権利関係
   四 おわりに――内水面の権利関係の重層性
第三章 統治を試みる近代国民国家
   一 近代国民国家による太湖流域漁民の統治の試み
   二 「郷鎮戸口調査表」の概要
   三 「郷鎮戸口調査表」に見える太湖流域漁民と陸上世界
   四 「郷鎮戸口調査表」に見える老宅鎮社会
   五 おわりに――戸籍簿から見える「統治されない技法」

第Ⅱ部 湖上民集団「社」「会」と宗教的紐帯

第四章 消えないエスニック・グループ――「本地人」「蘇北人」「山東人」
   一 太湖流域の湖上民(漁民)はどこから来たのか?
   二 「本地幫」「蘇北幫」「山東幫」の区別
   三 インタビュー記録に見る本地人・蘇北人・山東人意識
   四 表象としての「魚鷹(鵜飼い)」
   五 おわりに――漁民(湖上民)集団のアイデンティティとその表象
第五章 「網船会」に集まる小集団「社」「会」
   一 参与観察、宗教活動、湖上民の小集団
   二 神霊と廟会
   三 太湖興隆社徐家公門の場合――漁民の「社」「会」の事例(一)
   四 嘉興南六房老長生分会と平望北六房の場合――漁民の「社」「会」の事例(二)(三)
   五 おわりに――太湖流域漁民(湖上民)社会の共同性と「社」「会」
第六章 湖上民の信仰する神霊――劉猛将・楊姓神・上方山大老爺・太君神
   一 歴史文献とインタビューからの湖上民の信仰世界への接近
   二 劉猛将(劉王、上天王)
   三 楊爺廟
   四 上方山大老爺(五通神)
   五 太君神
   六 おわりに――湖上民と漁撈・水運の安全保護、そして崇り神からの守護

第Ⅲ部 湖上民集団の「香頭」と“避難・移住の記憶”

第七章 太湖流域の「香頭」と「香客」
   一 ライフヒストリーの手法を用いて太湖流域漁民を描く
   二 「香頭」徐貴祥氏のライフヒストリー
   三 太湖興隆社と「香頭」
   四 徐家公門と「香頭」
   五 華北農村の事例との比較検討
   六 おわりに――徐貴祥氏に見る太湖流域漁民の「香頭」の三つの特徴
第八章 「香頭」・首長・シャーマン
   一 「神漢」「神職」としての「香頭」の職務
   二 賛神歌歌手としての「香頭」
   三 「香頭」継承の記憶装置としての神像・神像画
   四 おわりに――太湖流域漁民の「香頭」の役割・継承・権威
第九章 「香頭」の賛神歌、「非物質文化遺産」、創り出された「伝統」
   一 賛神歌から太湖流域漁民(湖上民)を考える
   二 非物質文化遺産(無形文化財)申請書に見る「香頭」と賛神歌
   三 口碑資料に見る「香頭」と賛神歌
   四 おわりに――創り出された“伝統”と“生き残り戦略”としての非物質文化遺産


終 章 「網船鬼」の湖上世界を包摂する国家の統治
   一 漂泊と捕魚の船上生活――一九四九年以前の「統治しがたい」太湖流域漁民(湖上民)
   二 漁民協会・捕撈大隊の成立――共産党政権成立初期における漁民の組織化
   三 一九六八年の「漁業的社会主義改造(漁改)」と漁業村の成立
      ――農業への転換の試みと失敗
   四 承包(請負)責任制への転換
   五 「湖上のゾミア」としての太湖に浮かぶ「梁山泊」

   あとがき
   初出一覧
   参考文献
   資 料
   図表一覧
   索引(人名・事項・地名)
このページの先頭へ