ホーム > 書籍詳細ページ

プリミエ・コレクション 115

「働くわたし」を失うとき

病休の語りを聴く臨床心理学

野田 実希

A5上製・242頁

ISBN: 9784814003303

発行年月: 2021/03

  • 本体: 3,100円(税込 3,410円
  • 在庫あり
 
  • mixiチェック

内容

「○○社の△△さん」。職業がアイデンティティと密接に結びついている現代人にとって、心の病いによる休職は自己存在を揺るがす重大な出来事だ。休職者の職場復帰を支援するための制度や政策は整備されつつあるが、休職を「失敗」と見なし、以前と同じ状態に戻ることに期待する見方は根強く、当事者の視点での「回復」のありかたは殆ど論じられていない。本書は、臨床心理学の観点から、メンタルヘルス不調による病休体験を、本人の語りから読み解いてゆく。「働くわたし」が「働けないわたし」に変わるとき、人は何を体験するのか。精神医学や職場適応の問題だけに帰してしまうのではなく、個人の「わたし」という自己の観点から、支援の糸口を探る。

プロフィール

1983年,愛知県に生まれる。2008年同志社大学大学院文学研究科英文学・英語学専攻博士課程(前期課程)修了。5年間の社会人経験を経て, 2013年京都大学教育学部に学士入学,2015年同卒業。2020年3月京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻博士後期課程修了。京都大学博士(教育学)。臨床心理士,公認心理師。現在,京都大学大学院教育学研究科特定助教。専門は臨床心理学,心理療法。

目次

まえがき

序章 「働くわたし」への探究
 1 働くことと自己
 2 働く人の心のいま
 3 働く人の心の問題はどのように考えられてきたか
 4 「わたしが働くこと」への問い
 5 病休の語りへの関心
 6 本書の目的

第1章 病休にともなう「わたし」の体験
    ーこれまでの研究を概観して
 1 職場のメンタルヘルスに対する取り組み
 2 休職者への理解と支援の現状
 3 先行研究からみる休職者の主観的な体験
 4 現在の休職者支援と研究における課題

第2章 「働くわたし」という自己の揺らぎ
    ーメンタルヘルス不調の発見から休職まで
 1 職業人の受療を妨げるものは何か
 2 どのように心の病いに気づいて休職へと向かうのか
   ーインタビュー調査
 3 「働けないわたし」との出会いー調査結果から
 4 揺らぐ自己を支える受療支援
 5 理想の職業人像に潜むリスクを見据えてー本章のまとめ

第3章 「働かないわたし」から新しい「働くわたし」へ
    ー休職から復職・回復ヘ
 1 休職後にどのような「わたし」が生きられるのか
   ーインタビュー調査
 2 「働かないわたし」から照射される「働くわたし」
   一調査結果から
 3 病休における「回復」の問い直し
 4 病休を通した自己の変容ー第2章・第3章のまとめ

第4章 頻回病休を生きる「わたし」
 1 頻回病休と自己との関連
 2 頻回病休はどのように体験されているのか
   一インタビュー調査
 3 さまざまな自己の様相と自己像間の分極ー調査結果から
 4 頻回病休における「働くわたし」の喪失
 5 自己全体が抱えられるための支援ー臨床実践に向けて
 6 頻回病休を生きる「わたし」へのまなざし
   一本章のまとめ

第5章 語りにならない病休の語りを聴くために
    ーナラティヴアプローチの新たな可能性
 1 「語り」へのアプローチ
 2 対話的な語りの視点
 3 対話として聴きとる頻回病休の語り
 4 語りを対話的に捉えることの臨床的意義
 5 新たなナラティヴヘの展望

第6章 「語り」を通して見えてくる病休体験の意味
    ー総合考察
 1 これまでのまとめと展開
 2 病休の語りを「知ること」から「聴くこと」へ
   ー質的研究と心理臨床における語りの差異と重なりから
 3 語り生きられる「わたし」へのまなざし
 4 病休を生きる「わたし」への臨床的アプローチ

終章 「働くわたし」が語るとき

研究ノート1 質的研究は臨床心理学において
       どのように語られてきたか
 1 臨床心理学における研究法の概略
 2 臨床心理学における質的研究法論の概観
 3 質的研究の認識論における語りの生成の意義

研究ノート2 従来のナラティヴ分析における語りの認識
 1 ナラティヴの認識論的背景
 2 従来の水平方向の次元に基づく視点

研究ノート3 語りにおける応答と責任
 1 「わたし」が「あなた」に語ること
 2 語りを聴き,語り継ぐことの責任

あとがき
初出一覧
文献
索引
このページの先頭へ