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環境人間学と地域

東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明

安藤 和雄 編

A5上製, 560 pages

ISBN: 9784814002733

pub. date: 03/20

  • Price : JPY 6,500 (with tax: JPY 7,150)
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内容

アジアの高地は,中国やインドの低地からの文明干渉に対抗し,取り入れるべきものは取り入れながら高地の風土に応じた生業を発展させる一方で,独自の社会文化を築いている。高所特有の環境に移動し適応してきた人々の,自然利用と精神世界の特徴をあぶり出し,そこに「文明」と呼びうる制度を見る。世界の高地社会研究に資するとともに,あまたある文明論に一石を投じ,温帯・低地世界中心の文明観の問題点に鋭く迫る。

プロフィール

安藤 和雄(あんどうかずお) 編者,はじめに,序章,第1章,第12章,第15章,終章,あとがき
京都大学東南アジア地域研究研究所 教授
専門分野:熱帯農学,農村開発研究,地域研究
主著:「ベンガル・デルタの洪水,サイクロンと在地の技術」『地球圏・生命圏の潜在力――熱帯地域社会の生存基盤』(分担執筆,京都大学出版会,2012),Integrated Study on Sustainable Agriculture and Rural Development towards Research and Education in Myanmar and Surrounding Countries(Practice-oriented Area Studies No.2)(共編著,Yezin Agricultural University, 2011), Paper Collection of Unknown Contemporary Issues for Sustainable Environmental and Rural Development in Myanmar: Highlighting Collaboration with Bangladesh, Bhutan and Japan(Practice-oriented Area Studies No.9)(共編著,2016).

赤松 芳郎(あかまつ・よしお) 第4章
京都大学東南アジア地域研究研究所 連携助教
専門分野:農業生態学,農村開発学
主著:Change of Livelihood and Its Contemporary Problems in Mountainous Villages of Eastern Bhutan(Rubi Enterprise, 2016)

アバニィ クマール バガバティ(Abani Kumar BHAGABATI) 第15章
インド,ゴウハティ大学地理学科 教授,インド地理学者協会(Institute of Indian Geographers)元会長
専門分野:自然地理学
主著書:Biodiversity of Assam(EBH Publishers, 2006),Geography of Assam(Rasmi Prakas, 2016)

石本 恭子(いしもと・やすこ) 第5章
川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科 准教授
専門分野:公衆衛生学,フィールド医学,看護学
主著:Arunachal Pradesh: mystical Shangri-La in Eastern Himalaya-Fascinating features in the Eastern Himalayas and perspectives foe modern civilization(共著,Rubi Enterprise, 2014),『続・生老病死のエコロジー ヒマラヤとアンデスに生きる身体・こころ・時間』(共著,昭和堂,2013),『東ヒマラヤにおける飲食文化と健康――ネパールの酒づくりと利用に関する医学・栄養学人類学による複合研究』(共編著,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科フィールドワーク・インターンシップ支援室,2013)

稲村 哲也(いなむら・てつや) 第3章,第16章,コラム2
放送大学 特任教授
専門分野:文化人類学,博物館学
主著:『レジリエンスの諸相―人類史的視点からの挑戦』(共編著,放送大学教育振興会,2018),『遊牧・移牧・定牧――モンゴル,チベット,ヒマラヤ,アンデスのフィールドから』(ナカニシヤ出版,2014),『ヒマラヤの環境誌――山岳地域の自然とシェルパの世界』(共編著,八坂書房,2000)

奥宮 清人(おくみや きよひと) 第8章
京都大学東南アジア地域研究研究所 連携教授
専門分野:フィールド医学,老年医学,神経内科学
主著:『高所と健康・病気――低酸素適応と生活変化』(西村書店,2013),『続・生老病死のエコロジー――ヒマラヤとアンデスに生きる身体・こころ・時間』(共編共著,昭和堂2014),『生老病死のエコロジー――チベット・ヒマラヤに生きる』(編著,昭和堂,2011)


奧山 直司(おくやま なおじ) 第9章,コラム3
高野山大学文学部密教学科 教授
専門分野:インド・チベット密教史,仏教文化史
主著:『評伝 河口慧海』(中央公論新社,2009),『釈尊絵伝』(共著,学習研究社,1996),『河口慧海日記――ヒマラヤ・チベットの旅』(編著,講談社,2007),『高山寺蔵 南方熊楠書翰――土宜法龍宛1893-1922』(共編,藤原書店,2010),『コンタクト・ゾーンの人文学 第Ⅳ巻―Postcolonial/ポストコロニアル―』(共編著,晃洋書房,2013)

河合 明宣(かわいあきのぶ) 第13章,コラム5,コラム6
放送大学 特任教授
専門分野:農業経済学,農村発展論・南アジア地域研究
主著:『改訂 NPOマネジメント』(編著,放送大学教育振興会,2017),『地域の発展と産業』(編著,放送大学教育振興会,2015),ʻLandlordsʼ and Imperial Rule: Change in Bengal Agrarian Society, c.1885-1940, 2 Vols(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所,1986-87)

川本 芳(かわもと よし) 第3章,第16章
日本獣医生命科学大学獣医学部 客員教授
専門分野:動物集団遺伝学,霊長類学
主著:『熱帯高地の世界』(分担執筆,ナカニシヤ出版,2019),『世界で一番美しいサルの図鑑』(分担執筆,エクスナレッジ,2017),『日本の外来哺乳類:管理戦略と生態系保全』(分担執筆,東京大学出版会,2011)

木村 友美(きむらゆみ) 第7章
大阪大学大学院 人間科学研究科 講師
専門分野:栄養学,公衆衛生学
主著:『シリーズ人間科学 食べる』(分担執筆,大阪大学出版会,2018),『続・生老病死のエコロジー――ヒマラヤとアンデスに生きる身体・こころ・時間』(分担執筆,昭和堂,2013)

小坂 康之(こさか やすゆき) 第12章,第14章,コラム3,コラム7
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 准教授
専門分野:民族植物学
主著:“On the introduction of paddy rice cultivation by swiddeners in Arunachal Pradesh, India”,TROPICS 24(共著,2015),『生老病死のエコロジー:ヒマラヤ・チベットに生きる』(分担執筆,昭和堂,2011),『ラオス農山村地域研究』(分担執筆,めこん,2008)

小林 尚礼(こばやし なおゆき) 第10章
小林写真事務所代表,カワカブ会代表
専門分野:写真撮影,自然信仰の聖地
主著:『科学者の目,科学の芽』(共著,岩波書店,2016),『トウガラシ讃歌』(共著,八坂書房,2010),『梅里雪山――十七人の友を探して』(山と溪谷社,単行本2006・文庫2010)

坂本 龍太(さかもと・りょうた) 第6章
京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授
専門分野:フィールド医学
主著:『ブータンの小さな診療所』(ナカニシヤ出版,2014),『身体と生存の文化生態』(共著,海青社,2014),『地球環境学マニュアル2』(共著,朝倉書店,2014)


竹田 晋也(たけだ しんや) コラム1
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授
専門分野:東南アジア地域研究,森林科学
主著:“Changing Land Use and Water Management in a Ladakhi Village of Northern India” Agriculture and Agricultural Science Procedia, 60-66(2015),『続・生老病死のエコロジー』(分担執筆,昭和堂,2013),『生老病死のエコロジー』(分担執筆,昭和堂,2011)

タシ ドルジ(Tashi Dorji) 第3章
International Centre for Integrated Mountain Development(ICIMOD)
Livelihood Specialist
専門分野:獣医学,畜産学
主著:Yak on the Move: Transboundary Challenges and Opportunities for Yak Raising in a Changing Hindu Kush Himalayan Region(分担執筆,ICIMOD, 2016),“Livestock Production in Bhutan: Retrospect, Present Situation and Future Outlook”, Report of the Society for Researches on Native Livestock No. 24(2007) 

トモ リバ(Tomo Riba) 第12章,第15章
ラジーヴ・ガンディー大学 教授
専門分野:環境地理学,人口地理学
主著:Tribal Belief Systems and Their Ecosystem(Indigenous Faith and Cultural Society of Arunachal Pradesh, 2002),Indigenous Faith and Practices of the Tribes of Arunachal Pradesh(分担執筆)(Himalayan Publishers, 1998),Understanding Tribal Religion(分担執筆,Mittal Publication, 2004)

ニッタノンダ デカ(Nityananda DEKA) 第15章
ゴウハティ大学地理学教室 助教
専門分野:人文地理学
主著:“Landholding structure and rural land use pattern in the Brahmaputra floodplain: A comparative study of villages from upper and lower Assam”(Transactions: Journal of the Institute of Indian Geographers 40/ 1, 2018)

水野 一晴(みずの かずはる) 第11章
京都大学大学院文学研究科 教授
専門分野:自然地理学,地域研究(アフリカ,アンデス,ヒマラヤ)
主著:『世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活』(ちくま新書,2018),『気候変動で読む地球史――限界地帯の自然と植生から』(NHKブックス,2016),『人間の営みがわかる地理学入門』(ベレ出版,2016)

宮本 真二(みやもと しんじ) 第2章,第15章
岡山理科大学生物地球学部 准教授
専門分野:自然地理学,環境考古学
主著:『実践 統合自然地理学――あたらしい地域自然のとらえ方』(分担執筆,古今書院,2018),『自然と人間の環境史』(共編共著,海青社,2014),『ヒマラヤの環境誌―山岳地域のシェルパの世界―』(分担執筆,八坂書房,2000)

リンチン ツェリン ドゥンカルパ(Rinchin Tsering Dunkarpa) コラム7
ドゥンカルパ福祉協会 会長

目次

口絵
はじめに――東ヒマラヤ地域研究の意義
 1 都市なき豊かさとしての農村文明
 2 もう一つの文明の定義
 3 地域単位「東ヒマラヤ」――ミッシングリグとしての東ブータンとアルナーチャル・プラデーシュ州
 4 チベットとは異なる独自な文化圏――東ヒマラヤの自然・言語と生活・農業生態
 5 本書の構成
序 章 高地文明論と農村文明論――東部ヒマラヤでの地域研究が目指すもの[安藤和雄]
 1 文明ニッチと在地ニッチ
 2 高所「文明」と呼ぶことの意味
 3 青海省での確信したアジア高地文明
 4 低地文明に外発的に意識させられた高地文明

第Ⅰ部 生業――農耕,牧畜と生態環境

第1章 「高地文明」としての東ヒマラヤ――農耕からの視点
[安藤和雄]
 1 ブラマプトラ水系がつくる東ヒマラヤ
 2 東ヒマラヤの湿潤モンスーン農耕の文化的特徴
 3 高地ネットワーク社会――ディランのモンパ・モデル
第2章 高所ヒマラヤの地勢的特徴と現代――自然災害問題から考える[宮本真二]
 1 高所の自然災害
 2 氷河湖の決壊洪水
 3 森林破壊・土地荒廃と斜面崩壊・地滑り
 4 災害と人為
第3章 ミタンの利用と高所世界――ブータンの交雑家畜の遺伝学研究から[川本 芳,タシ ドルジ,稲村哲也]  51
 1 ヒマラヤと周辺地域のウシ科動物の利用
 2 ミタンという家畜
 3 ブータンでのミタン利用
 4 ミタンの利用と起源に関する遺伝学調査
 5 牧畜文化からみたミタン交雑利用
 6 ブータンの変貌と伝統的農業の変化
第4章 焼畑から換金作物へ,そして……――東ブータン村落の農業と現状[赤松芳郎]
 1 ツァンラの住む村――調査地とその概観
 2 農業――焼畑農業から常畑換金作物栽培へ
 3 離農,離村,GNH――東ブータンの農山村の現在
 4 農村が農村として担う役割とは?
◉コラム1 アルナーチャル・プラデーシュの生業景観 [竹田晋也]
◉コラム2 乳の利用から見る東ヒマラヤの文化 [稲村哲也]
◉コラム3 東ヒマラヤの植物に魅せられて [小坂康之]

第Ⅱ部 身体――食文化と医学的特徴

第5章 健康と高地文明――ディランの医療事情とライフスタイルの変容[石本恭子]
 1 ディラン周辺の医療状況とディランヘルスセンター
 2 ディランヘルスセンターの日常
 3 メディカル・キャンプの実際とその成果
 4 生活様式から考える高所文明
第6章 ビレッジヘルスワーカーたち――ブータン王国における村の保健管理の担い手[坂本龍太]
 1 VHW導入前の保健行政の歩み
 2 VHWの設置
 3 VHWの仕組み
 4 今後の可能性
第7章 モンパ族の食事――ルブラン村に暮らす牧民の栄養調査から[木村友美]
 1 調査について
 2 ルブラン村でみられた主な料理
 3 住民の一日の栄養摂取量
 4 食塩摂取量と高血圧
 5 ルブラン村での食事と肥満,高血圧
第8章 高地生活習慣病モデルからみたモンパの高齢者[奥宮清人]
 1 アルナーチャルにおける生活スタイルの変容と生活習慣病
 2 高所生活習慣病(糖尿病・高血圧)アクセル仮説
 3 高所生活に適応した健康デザイン

第Ⅲ部 精神――高所の宗教文化

第9章 モンユルの仏教――チベット仏教圏の中のアルナーチャル・プラデーシュ州西部[奥山直司]
 1 アルナーチャル・プラデーシュの民族と宗教
 2 モンユル回廊とその住民
 3 ラセー・ツァンマ伝説とシャルモンの諸氏族
 4 モンユル仏教史の曙
 5 ニンマ派とカルマ派の進出
 6 ゲルク派の勢力扶植
 7 メラ・ラマとタワン僧院の創設
 8 ダライ・ラマ6世の誕生
 9 ディランの仏教
第10章 「森のチベット」における自然信仰の聖地[小林尚礼]
 1 なぜ「自然信仰の聖地」なのか
 2 「森のチベット」の聖地を訪ねて
 3 山へ祈る祭礼「ラーソイシー」
 4 森のチベットの魅力
第11章 モンパ民族地域に見られる「悪霊」と儀式[水野一晴]
 1 ボン(ポン)教の儀礼,祭式,ホシナ
 2 ディランモンパとリスとの関係
 3 ボン(ポン)教やチベット仏教にみられる悪霊
第12章 焼畑耕作と在来信仰[トモ リバ,安藤和雄,小坂康之]
 1 タニ・グループのドニ・ポロ信仰
 2 タニ・グループの焼畑耕作と在来信仰との関わり
 3 「多様性の中の統一」と信仰
◉コラム4 ブータンの仏教 [奧山直司]

第Ⅳ部 近代――土地利用,グローバリズムと変容

第13章 陸封された地域の「解放」[河合明宣]
 1 陸封された地域
 2 1960年代以降の社会経済及び地方行政の変化――NEFA:アルナーチャル・プラデーシュ
 3 1960年代以降の社会経済及び行政の変化―ブータン
 4 陸封された地域の今日から我々は何を学ぶか
第14章 東ヒマラヤの植生に刻まれた歴史[小坂康之]
 1 民族移動の伝承
 2 ゾウの好む果実(標高100m)
 3 野生バナナの森(標高200m~500m)
 4 水田の野草(標高1600m)
 5 コナラ(アベマキ)林の恵み(標高2000m)
 6 雲の上のお花畑(標高3000m~4000m)
 7 植生に刻まれた歴史
第15章 東部ヒマラヤにおける土地開発史[宮本真二,安藤和雄,アバニィ クマール バガバティ,ニッタノンダ デカ,トモ リバ]
 1 はじめに――ヒマラヤにおける埋没腐植土壌・炭化木片と土地開発史研究
 2 「間接的手法」によるデータ
 3 東部ヒマラヤにおける土地開発時期の地域間差異
第16章 ブータン極東部の牧民社会とその変化[稲村哲也,川本芳]
 1 調査地メラックの概要
 2 独特な家族と婚姻の形態
 3 生業のしくみ――ネパールとの比較
 4 家畜の交雑の複雑化とその背景
 5 メラックの牧畜システムと社会の変容とその背景
◉コラム5 マクマホン・ラインと東ヒマラヤ [河合明宣]
◉コラム6 東ヒマラヤ南面の森林保全と農業環境 [河合明宣]
◉コラム7 牧畜民と社会発展――ドゥンカルパ福祉協会の試み [リンチン ツェリン ドゥンカルパ,安藤和雄,小坂康之]

終章に代えて 西南シルクロードと焼畑的水田稲作からひもとくヒマラヤ東部――3次元的な地域体系研究の端緒として[安藤和雄]
 1 東ヒマラヤの地域体系を輪郭づける
 2 西南シルクロード
 3 ハニ族と棚田稲作
 4 アパタニ族の棚田の作付体系――無犂稲作と畦のシコクビエ移植栽培
 5 アパタニ族とハニ族の稲起源伝説
 6 二つのチベット=ビルマ・グループの適応戦略

あとがき
初出一覧および執筆者による謝辞
文献一覧
索引
著者紹介
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