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『女工哀史』を再考する
失われた女性の声を求めて
A5上製, 505 pages
ISBN: 9784814002313
pub. date: 02/20
- Price : JPY 6,200 (with tax: JPY 6,820)
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製糸女工の労働歌「糸引き歌」の数々、当事者への聞き取り調査からみえる女工たちの主体的な<声>から、「女工哀史」的な抑圧の歴史にとどまらない、彼女たちの肯定的な労働意識を明らかにする本書は、マクロな政治史、経済史から周縁化されていた女工たちのミクロな生活史を通じて、生計を支える誇りある女性たちの労働観を浮上させる。”女性活躍”等の甘い観念とは異質な近代日本女性の労働参画の歴史から、現代日本のジェンダー状況をも問い直す画期的労作。
佐伯順子(比較文学者・同志社大学教授)
佐伯順子(比較文学者・同志社大学教授)
苛酷な労働条件下に置かれた女工という従来の一面的な見方を離れ、実際の製糸女工たちの生の声に基づいて「女工哀史」を再構築する。
第33回和辻哲郎文化賞〈一般部門〉
『読売新聞』2020.3.15付朝刊「本よみうり堂」、評者:加藤聖文氏
『週刊読書人』2020年6月5日付「学術文化」面、評者:木村涼子氏
週刊『エコノミスト』2020.7.28号、評者:井上寿一氏
『日本歴史』2021年3月号、94-96頁、評者:榎一江氏
『大原社会問題研究所雑誌』No.757(2021年11月号)、評者:倉敷伸子氏
『週刊読書人』2020年6月5日付「学術文化」面、評者:木村涼子氏
週刊『エコノミスト』2020.7.28号、評者:井上寿一氏
『日本歴史』2021年3月号、94-96頁、評者:榎一江氏
『大原社会問題研究所雑誌』No.757(2021年11月号)、評者:倉敷伸子氏
サンドラ・シャール(Sandra SCHAAL)
ストラスブール大学(フランス)言語学部准教授(博士後期課程の研究指導資格取得)、京都大学大学院文学研究科特任教授。
主な著作
「『瘴【ミア】気【スマ】』と『国民の心身の健康』:戦前日本の繊維工業に於ける産業衛生と女性労働者統制の政策をめぐって」(『大原社会問題研究所雑誌』610号、2009年8月); MURAKAMI-GIROUX S., SCHAAL S., SEGUY C. (eds.), Censure, autocensure et tabous, Ed. Philippe Picquier, 2011 ; 「〈モダン日本〉における都市のドラマトゥルギーと女性の演劇性」(宮信明・大久保遼編『演劇と演劇性:日仏共同国際シンポジウム』、早稲田大学演劇映像学連携研究拠点、2014年);“La modan gâru et les‘goûts déviants’: représentation de la vie moderne dans les écrits de Gonda Yasunosuke (1887-1951)”, in LEVY C., LEFEVRE B. (eds.), Parcours féministes dans la littérature et dans la sociéte japonaises de 1910 à 1930. De Seito aux modèles de politique sociale d’avant-guerre, Ed. L’Harmattan, 2017 ; MURAKAMI-GIROUX S., SCHAAL S. (eds.), Corps et message. De la structure de la traduction et de l’adaptation, Ed. Philippe Picquier, 2019 ; BIZAIS M., SCHAAL S. (eds.), Educations sentimentales. Normes et représentations des relations amoureuses et sexuelles en contextes orientaux, Ed. P.U.S., 2019
ストラスブール大学(フランス)言語学部准教授(博士後期課程の研究指導資格取得)、京都大学大学院文学研究科特任教授。
主な著作
「『瘴【ミア】気【スマ】』と『国民の心身の健康』:戦前日本の繊維工業に於ける産業衛生と女性労働者統制の政策をめぐって」(『大原社会問題研究所雑誌』610号、2009年8月); MURAKAMI-GIROUX S., SCHAAL S., SEGUY C. (eds.), Censure, autocensure et tabous, Ed. Philippe Picquier, 2011 ; 「〈モダン日本〉における都市のドラマトゥルギーと女性の演劇性」(宮信明・大久保遼編『演劇と演劇性:日仏共同国際シンポジウム』、早稲田大学演劇映像学連携研究拠点、2014年);“La modan gâru et les‘goûts déviants’: représentation de la vie moderne dans les écrits de Gonda Yasunosuke (1887-1951)”, in LEVY C., LEFEVRE B. (eds.), Parcours féministes dans la littérature et dans la sociéte japonaises de 1910 à 1930. De Seito aux modèles de politique sociale d’avant-guerre, Ed. L’Harmattan, 2017 ; MURAKAMI-GIROUX S., SCHAAL S. (eds.), Corps et message. De la structure de la traduction et de l’adaptation, Ed. Philippe Picquier, 2019 ; BIZAIS M., SCHAAL S. (eds.), Educations sentimentales. Normes et représentations des relations amoureuses et sexuelles en contextes orientaux, Ed. P.U.S., 2019
序 論
第一節 日本の製糸業に暗い影を落とした「女工哀史」的な視点の発生
(一)繊維工業の女性労働者の実態の表象から〈女工哀史言説〉という眼差しへ
(二)〈女工哀史言説〉という眼差しの消費と再生産
——マスター・ナラティヴとしての「女工哀史」的視点の確立
第二節 〈女工哀史言説〉という眼差しの修正の試み
(一)女性学における〈女工哀史言説〉の修正の試み
(二)繊維工業の女性労働者の被害者史観の修正の試み
第三節 〈女工たちの声〉の分析による「女工哀史」的視点の再検討
(一)「女工哀史」的視点に対する歴史的批判的アプローチ
(二)〈女工たちの声〉の分析を中心に据えること
第四節 普通の声なき人々に声を与えること
(一)糸ひき歌の分析
(二)製糸女工の聞き取り調査の分析
第五節 本書の構成について
第一部 日本の製糸業
第一章 戦前までの日本の製糸業の発展
第一節 日本における初期の製糸労働者
(一)徳川時代の蚕糸業と製糸業
(二)工場制手工業と問屋制家内工業の誕生
(三)幕末の外交と生糸輸出の開始
第二節 近代的な製糸業へ——「富国強兵」と官営富岡製糸場
(一)明治新政府と「富国強兵」
(二)官営富岡製糸場の設立
第三節 機械製糸業の発達と出稼ぎ型労働者
(一)一八七〇年代の製糸工場
(二)大規模な民営製糸工場の発展
(三)製糸業における出稼ぎ型労働者の出現と普及
第四節 第一次世界大戦から昭和恐慌にかけての製糸業
(一)第一次世界大戦と製糸業
(二)昭和恐慌と製糸業
第五節 第二次世界大戦下の製糸業——軍需産業への転換の時代
第二部 〈糸ひき歌〉の分析——製糸女工の失われた歌声を求めて
第二章 〈糸ひき歌〉とは何か
第一節 糸ひき歌という総称
第二節 糸ひき歌の由来
第三節 糸ひき歌の成立
(一)糸ひき歌の作詞
(二)糸ひき歌の作曲
第四節 糸ひき歌の歌唱とその機能
第五節 糸ひき歌の伝達
第六節 糸ひき歌の主題と言葉遣い
第三章 糸ひき歌と製糸工場へ働きに行くこと
第一節 「うちが貧乏で十二の時に売られて来ました」
第二節 「いい娘」——親に対する義務を果たす女性のイメージ
第三節 「男は軍人・女は工女」——国のために働く女性のイメージ
第四節 歌から女工の教化へ
第四章 糸ひき歌と製糸工場における労働の世界
第一節 女工と労働——工場の「いやな煙突」
(一)「ひと色仕事」
(二)労働時間の長さ
(三)「旦那さんよりテトロ(検査)がこわい」
第二節 女工と賃金——「糸は気まかせ気は糸まかせ」
第三節 女工と上司
(一)「怒り役」の現業長・検番
(二)技師・教婦
(三)「そろばん枕」のような工場主
第五章 糸ひき歌と製糸工場における生活世界
第一節 工場内の生活様式
(一)「ここの会社の規則を見れば千に一つのむだもない」
(二)「かごの鳥より寄宿舎住いはなお辛い」
第二節 工場の食べ物——「ギスじゃあるまいし瓜ばかたべて」
第三節 女工と工場内における風紀
(一)「くそ男工」
(二)「わたしゃ気楽な帳場のめかけ」
第四節 女工と工場から想う故郷
(一)「早く年明け二親様に」
(二)「諏訪のならい」——工場生活が故郷観に及ぼした影響
第六章 糸ひき歌と製糸女工の自己表象
第一節 工場内の自己表象
(一)酷使されるこの世の余り物
(二)「糸にとられてまる裸」
第二節 女工と戦前日本の社会の女工観
(一)弱者イメージへの反駁
(二)無教育で貧しい「田舎者」イメージへの批判
第三部 製糸女工の聞き取り調査の分析
第七章 ライフ・ヒストリーに即した製糸女工の〈声〉の分析
第一節 〈ライフ・ヒストリー〉という総称
第二節 明治後期から昭和初期を生きた七〇名の声
第三節 語り手を探し出す
コラム 「外国人女子学生」によるインタビュー
第八章 製糸工場に出るということ
第一節 就職理由
(一)「ウチが貧しいもん」
(二)みんなお嫁に行く前までは製糸工場へ
(三)一番手っ取り早く就職
(四)「人並み」になるための「修行」
(五)実家で苦労していた
(六)製糸工場についての良いうわさを聞いた
第二節 女工になることに対する認識
(一)親を早く楽にさせたいと思って
(二)「何とも思わずに」行った
(三)行きたくなかったが、選びようもなかった
(四)当り前・普通だと思って行った
第九章 製糸女工と工場労働の世界
第一節 「私達は働くっきりだった」
(一)「毎日おんなじ仕事」
(二)手指の火傷
(三)「蛹が臭うともう頭が痛くなっちゃって」
(四)朝から晩までの勤務の苦しさ
(五)「ちゃーんといい糸取らにゃ駄目だ」
第二節 工場での歌——歌われなくなっていた「糸ひき歌」
(一)工場の中で歌われていた歌
(二)会社の歌
(三)寄宿舎の中で歌われていた歌
(四)歌われなかった「糸ひき歌」
第三節 女工と工場内のヒエラルヒー
(一)技術を教える「先生」
(二)「怒るだけ」の検番
(三)近くて遠い親方
第四節 女工と報酬・消費生活
(一)三食腹いっぱい食べられる喜びから「百円工女」へ
(二)消費生活
(三)褒美と嫁入り仕度
第十章 工場生活(寄宿生活)の記憶
第一節 辛いこと
(一)工場における望郷の思い
(二)休日以外の外出についての厳しい規則
第二節 楽しいこと
(一)満腹まで食べられたご飯
(二)「お風呂は毎晩入った」
(三)友達との共同生活
(四)自由時間
(五)工場が提供した娯楽活動
第十一章 製糸女工と労働争議という抵抗形態
第一節 製糸女工を組織することの困難
(一)製糸女工という労働力の性質と工場内での取り扱い
(二)当局の厳しい取り締まりと圧力
(三)労働組合における婦人部設立についての論争
第二節 語り手と労働組合・労働争議
第十二章 製糸女工の経験についての表象
第一節 女工の経験と「女工哀史」的な社会観に対する認識
第二節 「苦労すること」・「辛抱すること」の重要性と意義
結 論
附 論
1 女工の募集方法
2 戦前の機械製糸工程
3 女工の労働時間
4 女工の賃金制度
5 製糸工場内の寄宿舎の設備と衛生
6 女工の教育
付 録
1 糸ひき歌
2 労働争議に関連する糸ひき歌
3 聞き取り調査の語り手
参考資料
あとがき
引用・参考文献
索引
第一節 日本の製糸業に暗い影を落とした「女工哀史」的な視点の発生
(一)繊維工業の女性労働者の実態の表象から〈女工哀史言説〉という眼差しへ
(二)〈女工哀史言説〉という眼差しの消費と再生産
——マスター・ナラティヴとしての「女工哀史」的視点の確立
第二節 〈女工哀史言説〉という眼差しの修正の試み
(一)女性学における〈女工哀史言説〉の修正の試み
(二)繊維工業の女性労働者の被害者史観の修正の試み
第三節 〈女工たちの声〉の分析による「女工哀史」的視点の再検討
(一)「女工哀史」的視点に対する歴史的批判的アプローチ
(二)〈女工たちの声〉の分析を中心に据えること
第四節 普通の声なき人々に声を与えること
(一)糸ひき歌の分析
(二)製糸女工の聞き取り調査の分析
第五節 本書の構成について
第一部 日本の製糸業
第一章 戦前までの日本の製糸業の発展
第一節 日本における初期の製糸労働者
(一)徳川時代の蚕糸業と製糸業
(二)工場制手工業と問屋制家内工業の誕生
(三)幕末の外交と生糸輸出の開始
第二節 近代的な製糸業へ——「富国強兵」と官営富岡製糸場
(一)明治新政府と「富国強兵」
(二)官営富岡製糸場の設立
第三節 機械製糸業の発達と出稼ぎ型労働者
(一)一八七〇年代の製糸工場
(二)大規模な民営製糸工場の発展
(三)製糸業における出稼ぎ型労働者の出現と普及
第四節 第一次世界大戦から昭和恐慌にかけての製糸業
(一)第一次世界大戦と製糸業
(二)昭和恐慌と製糸業
第五節 第二次世界大戦下の製糸業——軍需産業への転換の時代
第二部 〈糸ひき歌〉の分析——製糸女工の失われた歌声を求めて
第二章 〈糸ひき歌〉とは何か
第一節 糸ひき歌という総称
第二節 糸ひき歌の由来
第三節 糸ひき歌の成立
(一)糸ひき歌の作詞
(二)糸ひき歌の作曲
第四節 糸ひき歌の歌唱とその機能
第五節 糸ひき歌の伝達
第六節 糸ひき歌の主題と言葉遣い
第三章 糸ひき歌と製糸工場へ働きに行くこと
第一節 「うちが貧乏で十二の時に売られて来ました」
第二節 「いい娘」——親に対する義務を果たす女性のイメージ
第三節 「男は軍人・女は工女」——国のために働く女性のイメージ
第四節 歌から女工の教化へ
第四章 糸ひき歌と製糸工場における労働の世界
第一節 女工と労働——工場の「いやな煙突」
(一)「ひと色仕事」
(二)労働時間の長さ
(三)「旦那さんよりテトロ(検査)がこわい」
第二節 女工と賃金——「糸は気まかせ気は糸まかせ」
第三節 女工と上司
(一)「怒り役」の現業長・検番
(二)技師・教婦
(三)「そろばん枕」のような工場主
第五章 糸ひき歌と製糸工場における生活世界
第一節 工場内の生活様式
(一)「ここの会社の規則を見れば千に一つのむだもない」
(二)「かごの鳥より寄宿舎住いはなお辛い」
第二節 工場の食べ物——「ギスじゃあるまいし瓜ばかたべて」
第三節 女工と工場内における風紀
(一)「くそ男工」
(二)「わたしゃ気楽な帳場のめかけ」
第四節 女工と工場から想う故郷
(一)「早く年明け二親様に」
(二)「諏訪のならい」——工場生活が故郷観に及ぼした影響
第六章 糸ひき歌と製糸女工の自己表象
第一節 工場内の自己表象
(一)酷使されるこの世の余り物
(二)「糸にとられてまる裸」
第二節 女工と戦前日本の社会の女工観
(一)弱者イメージへの反駁
(二)無教育で貧しい「田舎者」イメージへの批判
第三部 製糸女工の聞き取り調査の分析
第七章 ライフ・ヒストリーに即した製糸女工の〈声〉の分析
第一節 〈ライフ・ヒストリー〉という総称
第二節 明治後期から昭和初期を生きた七〇名の声
第三節 語り手を探し出す
コラム 「外国人女子学生」によるインタビュー
第八章 製糸工場に出るということ
第一節 就職理由
(一)「ウチが貧しいもん」
(二)みんなお嫁に行く前までは製糸工場へ
(三)一番手っ取り早く就職
(四)「人並み」になるための「修行」
(五)実家で苦労していた
(六)製糸工場についての良いうわさを聞いた
第二節 女工になることに対する認識
(一)親を早く楽にさせたいと思って
(二)「何とも思わずに」行った
(三)行きたくなかったが、選びようもなかった
(四)当り前・普通だと思って行った
第九章 製糸女工と工場労働の世界
第一節 「私達は働くっきりだった」
(一)「毎日おんなじ仕事」
(二)手指の火傷
(三)「蛹が臭うともう頭が痛くなっちゃって」
(四)朝から晩までの勤務の苦しさ
(五)「ちゃーんといい糸取らにゃ駄目だ」
第二節 工場での歌——歌われなくなっていた「糸ひき歌」
(一)工場の中で歌われていた歌
(二)会社の歌
(三)寄宿舎の中で歌われていた歌
(四)歌われなかった「糸ひき歌」
第三節 女工と工場内のヒエラルヒー
(一)技術を教える「先生」
(二)「怒るだけ」の検番
(三)近くて遠い親方
第四節 女工と報酬・消費生活
(一)三食腹いっぱい食べられる喜びから「百円工女」へ
(二)消費生活
(三)褒美と嫁入り仕度
第十章 工場生活(寄宿生活)の記憶
第一節 辛いこと
(一)工場における望郷の思い
(二)休日以外の外出についての厳しい規則
第二節 楽しいこと
(一)満腹まで食べられたご飯
(二)「お風呂は毎晩入った」
(三)友達との共同生活
(四)自由時間
(五)工場が提供した娯楽活動
第十一章 製糸女工と労働争議という抵抗形態
第一節 製糸女工を組織することの困難
(一)製糸女工という労働力の性質と工場内での取り扱い
(二)当局の厳しい取り締まりと圧力
(三)労働組合における婦人部設立についての論争
第二節 語り手と労働組合・労働争議
第十二章 製糸女工の経験についての表象
第一節 女工の経験と「女工哀史」的な社会観に対する認識
第二節 「苦労すること」・「辛抱すること」の重要性と意義
結 論
附 論
1 女工の募集方法
2 戦前の機械製糸工程
3 女工の労働時間
4 女工の賃金制度
5 製糸工場内の寄宿舎の設備と衛生
6 女工の教育
付 録
1 糸ひき歌
2 労働争議に関連する糸ひき歌
3 聞き取り調査の語り手
参考資料
あとがき
引用・参考文献
索引