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学術選書 109

脳はどのように学ぶのか

教育×神経科学からのヒント

乾 信之

四六並製・368頁

ISBN: 9784814004591

発行年月: 2023/05

  • 本体: 2,000円(税込 2,200円
  • 在庫あり
 
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内容

子どもも大人も経験と学習で脳は変わる。ヒトの脳が学習効率を上げるには、注意・能動性・フィードバック・睡眠の4つの機能と、それらを最大限発揮する時期の組み合わせがポイントだ。計算や楽器の習得でランダム練習が効果的な理由、先生が指示しすぎないことで子どもの気づきを促す仕組み、大人の学び直しや再チャレンジが有効な神経科学的根拠など、学ぶ人、教える人の双方に心強さを与える知見を紹介。幼児教育から生涯学習まで、21世紀の教育を脳から提案する。

書評

『日経サイエンス』2023年8月号

『山陰中央新報』2023年7月1日付 読書面
『下野新聞』2023年7月2日付 読書面
『大分合同新聞』2023年7月2日付 読書面
 いずれも評者:森口佑介氏

プロフィール

乾 信之(いぬい のぶゆき)
鳴門教育大学名誉教授。Associate Editor of Perceptual and Motor Skills(SAGE Publishing, USA)。1953年徳島県鳴門市生まれ。横浜国立大学教育学部、広島大学教育学研究科(教育学修士)、岐阜大学医学研究科(医学博士)で学んだ後、岐阜大学助手、愛知県立大学助教授、鳴門教育大学教授、オーストラリア神経科学研究所客員シニア・フェローを経て現在に至る。
専門:知覚-運動制御論、教育神経科学
【主な著書】
タイミングの科学:脳は動作をどうコントロールするか(2022)京都大学学術出版会、Interpersonal coordination: a social neuroscience approach (2018) Springer, Systematic changes in body image following formation of phantom limbs (2016) Springer(以上単著)

目次

はじめに
  教育の現代的課題とは―学校システムの限界
  新しい学校づくり
  脳の働きから捉え直す―学習効率を求めて
  本書の構成

第Ⅰ部 学習とは何か―脳の働きから学習を捉え直す

第1章 経験と学習が脳を変える
 タクシー運転手は脳のどこが増えるか?
 楽器やスポーツの練習は脳のどこを変えるか?
 脳の代償作用―目の見えない人が点字を読むと視覚野が働く
 脳地図の再配置―幻肢の正体は何か
 道具を使うと身体イメージが拡大する

第2章 学習はシナプスで起こる―信号の伝わり方の変化
 シナプスの通りがよくなる法則とは―ヘッブの法則
 シナプス伝達の立役者
 学習によってシナプスで何か起こるか?
 ニューロン活動を調節する物質
 情報の「結びつけ」のメカニズム―発散と収束
 記憶と忘却の正体
 頭の記憶と体の記憶

第3章 「学ぶ」とは、「教える」とは
 学習段階―言葉で説明できるプロセス、できないプロセス
 他者の支援が学習能力を変える
 学習の終着点からみた記憶の分類
 「学び過ぎない」学び、「教え過ぎない」教え
 「スキル」の学習、「わざ」の稽古

第Ⅱ部 学習の五本柱―学習効率を求めて

第4章 注意―情報の選択と切り替え
 二つのタイプの注意
 注意のバックグラウンド―覚醒
 注意と覚醒に伴う情報処理速度を測る
 注意と記憶の一体化
 コンピュータゲームが注意に与える影響
 注意欠如多動性障害は新しい認知スタイルか?
 好奇心はどう増幅されるか?
   トピック01:テニスはボールの飛び方向に注意を向ける

第5章 能動性―動作と認知の結合
 動くから分かる―俳句、写真、スケッチ
 直接経験―認識の「先祖返り」
 「動く」と「動かされる」は神経回路が異なる
 認知と動作をつなぐ小脳のバイパス
 「読み書き算盤」の基礎にある動作
  ①系列動作が壊れると物が語れない
  ②「空書」は文字を体感する
  ③数量は頭頂連合野で処理される
  ④計算は仮想的眼球運動に対応して処理される
   トピック02:ミラーニューロンが経験と言葉をつなぐ

第6章 フィードバック―積極的エラーのすすめ
 フィードバック概念の誕生
 運動の学習段階
 運動学習におけるフィードバック
 フィードバックを内在した行動計画―TOTE
 フィードバックとしてのテスト
 教育心理学の発見―分散授業は集中授業より記憶を促す
   トピック03:学習計画は順番が肝心

第7章 睡眠―記憶の定着
 睡眠は脳が積極的に生み出した
 睡眠の深さは脳波で測定される
 睡眠に関する三つの古典的研究
 睡眠負債と体内時計とは?
 学習と記憶を促す睡眠とは―レム睡眠
 レム睡眠と成績は相関する
 寝不足の子どもが多すぎる
   トピック04:始業時間を遅らせると成績が上がる

第8章 敏感期―学習に最適な時期
 胎児の脳は変化に富む
 視覚系の臨界期からみた「生まれと育ち」
 描画における「生まれと育ち」
 幼児の絵に立ち戻ったキュービズム
 獲得形質は遺伝するのか―DNAの塩基配列以外の遺伝情報
 生育環境は対人関係の発達に何をもたらすか―ブカレストの奇跡
   トピック05:知覚―運動スキルの練習開始はいつが最適か?

第Ⅲ部 発達と学習―年齢が学習に与える影響

第9章 脳の発育は行動をどう変えるか
 三歳までに母語と絶対音感が決まる―ニューロンの刈り込み
 九、一〇歳には段取りが芽生える―スキャモンの発育曲線
 何がいつ発育するのか―神経線維の髄鞘化
 大人でもニューロンは新生する
 身体活動はニューロン新生を促進する
 狩猟が海馬のナビゲーション記憶を促した

第10章 不安定な中高生の脳―未成熟な前頭前野
 前頭前野と「こころ」の正体
 前頭前野の成熟は三〇歳までかかる
 前頭前野の成熟は進路選択に間に合わない
 子どもの心の問題に授業と財政配分でどう向き合うか?
 新学期に先生がいない―過重労働が教師の精神疾患をもたらす
   トピック06:貧困と階層は脳に何をもたらすか?

第11章 子どもの自立と学習を促すアタッチメント
 親子の「ふれあい」が自立と学習を促す
 スキンシップの正体―細い触覚線維と島皮質
 親になると脳はどう変わるか?
 子どもの虐待は脳に何を引き起こすか?
 虐待を受けた子は思春期が早まる
 養育者が乳幼児の前頭前野の肩代わり
 情動が知情意をリードする
 前頭前野による情動の条件づけ
   トピック07:情動が働かないと親も「親に似た顔の人」になる

第12章 子どもの言葉の発達と教育
 言語学習の敏感期とは?
 耳が聞こえない赤ちゃんも手で喃語を話す
 敏感期は文法学習にあるが語彙学習にない
 文字を読む時には左脳が活動する
 バイリンガルによる脳内変化とは?
 難読症を改善する
 耳が聞こえない子の母語―手話
  ①耳が聞こえない子のバイリンガルとは―手話と口語
  ②手話も左脳を使う
 子どもの第二言語学習
  ①第二言語の文法学習は早いほど身につく
  ②外国語学習適性とは?
  ③小学校英語で大切なものは何か?
 文学教材は他者理解を促す

あとがき/引用文献/索引
掲載図版一覧
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