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カワウが森を変える

森林をめぐる鳥と人の環境史

亀田 佳代子・前迫 ゆり・牧野 厚史・藤井 弘章 著

A5並製・305頁

ISBN: 9784814003792

発行年月: 2022/03

  • 本体: 3,600円(税込 3,960円
  • 在庫あり
 
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内容

漁業に損害を与え森を枯らす害鳥か、良質な肥料を提供し人々に親しまれる益鳥か。日本に広く分布するカワウは、地域や時代によって人との関係性が変わる不思議な鳥である。その背景には地域ごとの歴史があり、地元の人が育んできた自然管理の技術があった。鳥類生態学、森林生態学、歴史民俗学、環境社会学の4視点で動物と人の未来のあり方を提言する。

書評

『野鳥』2022年7・8月号/No.859

プロフィール

亀田佳代子(かめだ かよこ)
滋賀県立琵琶湖博物館上席総括学芸員、博士(理学)
専門:鳥類生態学
主著:『保全鳥類学』(分担執筆)京都大学学術出版会,2007.『流域環境評価と安定同位体──水循環から生態系まで』(分担執筆)京都大学学術出版会,2008.『Seabird Islands: Ecology, Invasion, and Restoration』(分担執筆)Oxford University Press, 2011.『Lake Biwa: Interactions between Nature and People』(分担執筆)Springer, 2012.『Why Birds Matter: Avian Ecological Function and Ecosystem Services』(分担執筆)The University of Chicago Press, 2016.

前迫ゆり(まえさこ ゆり)
大阪産業大学大学院人間環境学研究科教授、学術博士
専門:森林生態学
主著:『植物群落モニタリングのすすめ──自然保護に活かす植物群落レッドデータ・ブック』(分担執筆)文一総合出版,2005.『世界遺産をシカが喰う──シカと森の生態学』(分担執筆)文一総合出版,2006.『とりもどせ!琵琶湖・淀川の原風景』(分担執筆)サンライズ出版,2009,『春日山原始林』(編著)ナカニシヤ出版,2013,『シカの脅威と森の未来──シカ柵による植生保全の有効性と限界』(編著)文一総合出版,2015.

牧野厚史(まきの あつし)
熊本大学大学院人文社会科学研究部教授、博士(社会学)
専門:環境社会学
主著:『鳥獣被害──〈むらの文化〉からのアプローチ(村落社会研究年報 46)』(編著)農山漁村文化協会,2010.『暮らしの視点からの地方再生──地域と生活の社会学』(編著)九州大学出版会,2015.『現場から創る社会学理論──思考と方法』(分担執筆)ミネルヴァ書房,2017.『大学的熊本ガイド──こだわりの歩き方』(分担執筆)昭和堂,2017.『生活環境主義のコミュニティ分析──環境社会学のアプローチ』(分担執筆)ミネルヴァ書房,2018.

藤井弘章(ふじい ひろあき)
近畿大学文芸学部教授・同大学民俗学研究所所員、博士(人間・環境学)
専門:歴史民俗学
主著:『ウミガメの自然誌』(分担執筆)東京大学出版会,2012.『高野町史 民俗編』(分担執筆)高野町,2012.『日本の食文化 4 魚と肉』(編著)吉川弘文館,2019.『新版八尾市史 民俗編』(分担執筆)八尾市,2019.『講座日本民俗学 1 方法と課題』
(分担執筆)朝倉書店,2020.

目次

巻頭口絵
はじめに

Part 1 カワウはなぜ人が利用する森にすむのか
     ——森とカワウと人の関係
Chapter 1〈鳥の視点〉
 森にすむ水鳥、カワウ[亀田佳代子]
 1 カワウという水鳥
 2 カワウが森に与える影響
 3 森を介した水鳥と人との関わり
Chapter 2〈森の視点〉
 カワウがすむ森、オオミズナギドリがすむ森[前迫ゆり]
 1 長い時間スケールで変化している森林
 2 野生生物の局所的増加によって変化した森林
 3 魚食性水鳥オオミズナギドリがすむ森
 4 水鳥がすむ森と人との関わり
Chapter 3〈人の視点〉
 地元の人々による鳥と森の利用[藤井弘章]
 1 鳥をめぐる利用
 2 植物をめぐる利用
 3 森全体に関わる利用
 4 繁殖地ごとに異なる利用の組み合わせ
Chapter 4〈社会の視点〉
 人が利用する森での共存の仕組み[牧野厚史]
 1 野生動物との関係の持ち方──軋轢と共存
 2 すみ分け的方法とその限界
 3 セミ・ドメスティケーションからみたカワウと人の関係
 4 人、カワウ、そして森林との関係
   ──長期にわたる関係の持続と3種類の共存

Part 2 「昔はカワウはいなかった」
     ——琵琶湖の森とカワウのせめぎ合い
Chapter 1〈森の視点〉
 琵琶湖が育む照葉樹林
 ──カワウは森をどう変えたのか[前迫ゆり]
 1 琵琶湖が育むタブノキ林
 2 竹生島のタブノキ林の成り立ちと変遷
 3 空中写真からみた64年間の植生変遷
 4 竹生島のタブノキ林の種多様性
 5 竹生島のタブノキ林は更新可能か
   ──照葉樹林の崩壊と再生
 コラム ① ギャップで確認された外来種アオスズメノカタビラ[前迫ゆり]
Chapter 2〈鳥の視点〉
 カワウによる竹生島と伊崎の森への影響[亀田佳代子]
 1 琵琶湖のカワウの生息状況
 2 琵琶湖でのカワウの生態
 3 カワウの営巣が森林の植生と養分動態に与える影響
 4 琵琶湖でのカワウと人との軋轢と対策
 5 カワウにとっての琵琶湖
 コラム ② カワウの巣材は何からできている?[前迫ゆり]
Chapter 3〈人の視点〉
 鳥の追い払いと森の管理の歴史[藤井弘章]
 1 カワウによる森林被害を歴史的に考える
 2 鳥の追い払いと山林保全──江戸後期
 3 山林管理の変化──明治維新期
 4 鳥の駆除と山林保全計画──明治10年代
 5 鳥の減少と山林管理の変化──明治20〜30年代
 6 カワウ・サギ類の生息状況と駆除
   ──昭和初期(1930年代)
Chapter 4〈社会の視点〉
 緑の島の森林景観史[牧野厚史]
 1 魅力ある風景を維持する努力
 2 島を眺める人々は何を問題としたか
 3 文化景観と自然景観
 4 竹生島森林景観保全の100年
 5 緑の島の森林景観のこれから

Part 3 カワウの恵みとムラの知恵
     ——知多半島の森とカワウの共存史
Chapter 1〈鳥の視点〉
 鵜の山の森とカワウの変遷[亀田佳代子]
 1 なぜ鵜の山ではカワウは長くすみつくことができたのか
 2 鵜の山でのカワウの生息数とコロニーの変遷
 3 カワウによる森林の衰退とその後の回復
 4 地元住民による糞採取技術と森林管理が植生に与えた影響
 5 現在のカワウと地元住民との関わり
 6 カワウにとっての鵜の山
Chapter 2〈森の視点〉
 カワウがすむ里山の今
 ──糞採取終焉50年後の森林をたどる[前迫ゆり]
 1 糞採取を生業とした森の今
 2 鵜の山をつくっている樹木の生態
 3 糞採取域は森林をどう変えたのか
 4 鵜の山の今とこれから
Chapter 3〈人の視点〉
 糞採取の技術と森の管理、人々の暮らし[藤井弘章]
 1 カワウからの恩恵を得る技術を探る
 2 上野間地区の生業と鵜の山
 3 上野間の人々とカワウ
 4 鵜糞採取の入札制度
 5 鵜糞採取の民俗
 6 鵜の山の管理
 7 上野間地区の農業と鵜糞の利用
 コラム ③ 上野間の大根[藤井弘章]
Chapter 4〈社会の視点〉
 緑保全のファイアーウォール[牧野厚史]
 1 カワウの生息が森林を守る?
 2 知多半島の都市化と「鵜の山」
 3 戦後上野間地区の人々とカワウとの関係
 4 山林に押し寄せる大規模開発と区の対応
 5 地域環境における「鵜の山」の位置

Part 4 カワウと森と人から広がる世界——森とカワウの未来
Chapter 1〈社会の視点〉
 共存におけるコミュニティの役割[牧野厚史]
 1 コミュニティと森林
 2 カワウとの「共存」とはどのようなものか
 3 カワウ、森林、人々の関係
 4 森林と人々との動的な関係が実現する広域的な「共存」
Chapter 2〈人の視点〉
 民俗知識を現代にどう生かすか[藤井弘章]
 1 カワウ営巣地の地域的特性
 2 寺社林におけるカワウの民俗知識と樹木枯死対策
 3 離島におけるカワウの民俗知識と鳥糞採取
 4 里山的森林におけるカワウの民俗知識と鳥糞採取
 5 里山的森林におけるカワウの観光資源利用
 6 先人の知恵を学び活かす
 コラム ④ 壁島・鳥島の鳥糞採取[藤井弘章]
Chapter 3〈森の視点〉
 文化が舞い踊る森とカワウ
 ──地域の生態系サービスを育む[前迫ゆり]
 1 天然記念物の森のダイナミズム
 2 田辺湾の照葉樹林とカワウ──南方熊楠が守った神島
 3 熊野川畔の照葉樹林とカワウ
   ──蓬莱山の森を保全する地域の人々
 4 琵琶湖の照葉樹林とカワウ
   ──古くから信仰と自然が融合する竹生島
 5 文化が舞い踊る森の生態系サービス
   ──カワウと森と人
Chapter 4〈鳥の視点〉
 森にすむ水鳥の恵みと軋轢を超えて[亀田佳代子]
 1 森にすむ水鳥の生態系サービスの特徴
 2 森にすむ水鳥の二面性
   ──生態系サービスとディスサービス
 3 現在のウ類と人との軋轢と対策

おわりに──森と生き物と人が織りなす日本の自然のありかた
索引
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