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地域研究叢書 45

〈伝統医学〉が創られるとき

ベトナム医療政策史

小田 なら

菊上製・326頁

ISBN: 9784814004041

発行年月: 2022/03

  • 本体: 3,800円(税込 4,180円
  • 在庫あり
 
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内容

建国の理念を体現し,「われわれの医学」(ホー・チ・ミン)として息づくベトナムの伝統医療。しかし,その「北ベトナム」中心のナショナリズムの物語を離れて歴史を辿ると,さまざまな権力作用,概念のもつポリティクス,実際の治療行為が結実した複雑な「伝統医学」像が顕れる。独立・分断・統一のなかで,近代国家はいかに医療の知識を制度に組み込んだのか。それは担い手たちにとって,いかなる経験だったのか。公定の「伝統医学」をめぐるダイナミズムを描く。

受賞

第12回(2023年度)三島海雲学術賞(人文科学部門)
第21回東南アジア史学会賞

書評

「アジア・アフリカ地域研究」2022年 第22-2号,292-294頁,評者:梅村絢美氏
「東南アジア研究」第60巻2号(2023年)、253-255頁、評者:見市雅俊氏
「アジア経済」第62巻第2号(2023年)、66-69頁、評者:岡田友和氏
「東南アジア 歴史と文化」第54号(2023年)、104-108頁、、評者:板垣明美氏
「岡山大学経済学会雑誌」第55巻1号(2023年)、77-87頁、、評者:木下広志氏・藤井大児氏
「立命館アジア・日本研究学術年報」第4号(2023年)、243-245頁、評者:千葉芳広氏
早瀬晋三書評ブログ 2022年04月28日
http://shayase88.livedoor.blog/archives/2022-04.html

プロフィール

小田なら(おだ なら)
東京外国語大学世界言語社会教育センター講師。
同志社大学文学部文化学科文化史学専攻卒業,京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程研究指導認定退学。博士(地域研究)。同研究科および千葉大学グローバル関係融合研究センター特任研究員, 日本学術振興会特別研究員(PD)を経て2021年より現職。
主な著作に, ‘Traditional Medicine in the Mekong Region'(From Mekong Commons to Mekong Community: An Interdisciplinary Approach to Transboundary Challenges, Routledge, 2021),「ベトナムは『性的少数者に寛容』なのか?—同性婚と性別変更にみる政策変容と社会規範」(『東南アジアと「LGBT」の政治—性的少数者をめぐって何が争われているのか』第8章,明石書店,2021年)がある。

目次

序 章 伝統医療はいかにして「伝統医学」となったか
第1節 「政権を通さず、直接人々に治療を施すことができる」—研究の背景
第2節 制度と概念の形成史として—研究の視角
 2-1 伝統医学とナショナル・アイデンティティ
 2-2 公定の語りからの脱却
 2-3 制度と概念、そして実践—研究の方法
第3節 本書の構成

解説 本書で使用する用語

第1章 触媒としての西洋医学—フランス植民地期
第1節 近代西洋医学の導入
 1-1 阮朝期の感染症対策—相克する宣教と医療
 1-2 植民地統治の進展—輸入される近代医療政策
 1-3 医学教育—ベトナム人エリート医師の誕生
第2節 出産をめぐるケアヘの介入
 2-1 助産婦養成の制度化
 2-2 ローカルな助産への介入—バー・ム(産婆)再教育事業
 2-3 助産の制度化の限界
 2-4 「護生院」設置—農村「近代化」の拠点
第3節 植民地政府と伝統医学
 3-1 ドゥクー布令—規制される伝統薬
 3-2 宗主国による伝統薬収集
第4節 ベトナム知識人層の伝統薬復活運動
第5節 前史としての仏領期—排除と馴致の始点

第2章 西医が主導する「東医」の制度化と実践—ベトナム民主共和国(北ベトナム)
第1節 ホー・チ・ミンの「東医」?
 1-1 語り継がれるホー・チ・ミンの治癒体験
 1-2 ホー・チ・ミン書簡の再検討
第2節 併存する医療—西洋・中華・在来(一九四六年〜五七年)
 2-1 脱植民地期における西医の動向
 2-2 分類・収集から「科学化」の提唱ヘ
 2-3 多様な民間団体の勃興
第3節 一元化・制度化・ベトナム化(一九五七年〜七五年)
 3-1 一元化される「東医」
 3-2 保健省の中国視察—排除しえない中華
 3-3 「組織化」「科学化」への反発—東医による批判の論点
第4節 「東医」実践の蓄積と課題
 4-1 行政村(社xa)での取り組み
 4-2 実例報告に見る実態
 4-3 戦場における治療薬の「発見」
第5節 北ベトナムにおける「東医」科学化の理想と困難

第3章 「東医」「西医」の競合と混交—ベトナム共和国(南ベトナム)
第1節 不可視化されてきた伝統医学
第2節 植民地の遺制の中で—ドゥクー布令から「9/64法」へ
 2-1 東医業界のドゥクー布令への反発
 2-2 「東医」の復権—ドゥクー布令改訂ヘ
 2-3 伝統薬を定義する—「9/64法」の内容分析
第3節 論争化する「東医」問題—さらなる法改正へ
 3-1 「東医」治療師の再規定
 3-2 法改正後の実情—医学教育における「東医」
 3-3 「東医」とは何か—日刊紙『正論』に見る医師と患者の「東医」観
第4節 南ベトナムにおける「東医」制度化の特徴
 4-1 東医と西医の線引き
 4-2 南部の華僑・華人と「東医」
第5節 競合・混交から分類へ

第4章 再編制される「伝統医学」—南北統一以後
第1節 北ベトナム式「東医」の南部移植
 1-1 中央研究機関の設立—南部の拠点形成
 1-2 調査報告から見る実情
 1-3 専門教育と南薬の試験栽培
第2節 「民族医学」の創出
 2-1 「東医」から「民族医学」へ—国内統合とベトナム民族の包摂
 2-2 顕在化する地域差
 2-3 南部の薬師・治療師と「民族医学」
第3節 「民族」の医学から「伝統」の医学へ
 3-1 憲法と関連組織における呼称の変化
 3-2 伝統医薬に関わる資格の再定義
 3-3 管理強化か、分類か
第4節 呼称の変遷に投影された困難

コラム① 「東医通り」の変化—華僑・華人からベトナム人へ

第5章 「伝統医学」教育と医師養成—理論化の困難と創造される実践
第1節 高等教育における「伝統医学」
 1-1 「伝統医学」の専門職化
 1-2 「伝統医学」専門職の養成
第2節 医師養成の実態—医薬科大学の実践と学生の動向
 2-1 フエに着目する理由
 2-2 伝統医学部の専門医養成
 2-3 卒業生の戸惑い
 2-4 専門医の考える「伝統医学」
第3節 学びの受け皿としての良医
 3-1 リエン・ホア(Lien Hoa)診療所
 3-2 ハイ・ドゥック(Hai Duc)診療所
 3-3 ニャン・アイ(Nhan Ai)診療所
 3-4 フエにおける鍼灸ネットワーク
第4節 標準化された専門医養成と独創性のはざまで

コラム② 華人の良医の経験

終章 「伝統医学」の制度化—伸縮する境界による囲い込み

謝辞
本書関連年表
附表
参考文献
索引
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