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「なんて無知で無教育な人々か」――阿鼻叫喚の病院の待合室,「完全にすれ違った」医師と患者/家族のやりとり,処方も指導も守らない人々が繰り広げる病いをめぐる「脈絡のない」会話――本書に描かれる事例を,ネパールの身体/社会文化に関する予備知識なく読んだ途端,あなたはそう思うだろう。しかしそれは違う。人々にとって痛く辛い経験は,科学の知識体系や検査数値とはまた別にある。理解し難いその態度は,身体の経験を,〈不器用な〉配慮の中で,皆とひたすら共有しようとする生活実践なのだ。生物医療が急速かつ無秩序に導入された国で,人々が,「共に生き共に死んできた」間身体的な生き方に,COVID-19下の私たちが何を学べるか。医療人類学の挑戦。
第17回 樫山純三賞 学術書賞
第9回 日本南アジア学会賞
第9回 日本南アジア学会賞
『朝日新聞』2022.4.30付朝刊 読書面、評者:磯野真穂氏
中村 友香(なかむら ゆか)
日本学術振興会特別研究員(PD).国立民族学博物館外来研究員.
1990年生まれ.2020年,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了.博士(地域研究).第10回育志賞を受賞.主要論文に,「身体をつなぐ会話」(『文化人類学』第83巻4号,2019年),The Concept of “Side Effects” and the Use of Biomedicine in Nepal (Studies in Nepali History and Society 26(1), 2021年)など.
日本学術振興会特別研究員(PD).国立民族学博物館外来研究員.
1990年生まれ.2020年,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了.博士(地域研究).第10回育志賞を受賞.主要論文に,「身体をつなぐ会話」(『文化人類学』第83巻4号,2019年),The Concept of “Side Effects” and the Use of Biomedicine in Nepal (Studies in Nepali History and Society 26(1), 2021年)など.
序章 ネパールの糖尿病患者をめぐる問い
1 ある老婆の言葉
2 ネパールの糖尿病と不確かさ
3 「村人」言説と糖尿病の経験
4 病いの会話——「病いの語り」からの跳躍
5 調査概要と構成
第1章 「壊れている(bigreko)」とは何を意味するか
——ネパールにおける生物医療の略史と現状
1 ネパールにおける生物医療の略史
1-1 ネパール生物医療施設の草創期(1846年〜1950年)
1-2 保健医療と開発援助1——施設建設・感染症対策(1951年〜1970年)
1-3 保健医療と開発援助2——プライマリー・ヘルスケア(1971年〜1989年)
1-4 商業主義的な生物医療の拡大(1990年〜)
2 生物医療をめぐる制度
2-1 公的医療施設とコミュニティ・ヘルスワーカー
2-2 医療従事者と医学教育
2-3 薬剤供給
2-4 新たな保健医療制度——国民健康保険と連邦制
コラム 1 疾病構造と転換
コラム 2 KC医師の医療改革運動
第2章 病院・薬局での「すれ違い」
——生物医療施設におけるの人々の経験
1 トゥルシプール市と医療
1-1 トゥルシプール市概要
1-2 医療の歴史と現状
2 トゥルシプール市における生物医療施設と患者の経験
2-1 公立生物医療施設
2-2 私立生物医療施設
2-3 医療を求めた移動
3 生物医療従事者/施設側の事情
3-1 医師を取り巻く労働環境
3-2 社会関係
3-3 診療の場における検査優先主義
3-4 治療と転院
4 私立薬局の状況と糖尿病薬
4-1 バザールの薬局概要
4-2 薬局と糖尿病薬
4-3 薬を出す人
5 薬局での交渉と移動
5-1 処方箋なしの購入
5-2 処方箋を越えて
5-3 薬をめぐる移動
6 日常の経験を構成する一要素としての生物医療
コラム 3 人民戦争とトゥルシプール
コラム 4 カルテと入院
コラム 5 糖尿病治療をめぐるお金
第3章 食事と薬をめぐる身体感覚と実践
——経験によりつくられる糖尿病
1 ネパールにおける糖尿病の現状と専門家の説明
1-1 ネパールの糖尿病に関する調査と治療施設
1-2 糖尿病の分類
1-3 専門家たちの解釈と説明
2 食べ物と病気
2-1 食べ物の捉え方
2-2 病気の原因と治療としての食べ物
3 薬剤の捉え方
3-1 安全な薬を探す
3-2 副作用(side effect)を手掛かりに
3-3 副作用は何をもたらすか
3-4 薬とケミカル
3-5 薬剤に含みこまれる社会関係
4 経験によりつくられる糖尿病
4-1 言葉・意味・繋がり
4-2 病因論
4-3 症状
コラム 6 食観念
コラム 7 アーユルヴェーダ
第4章 病いの不確かさへの対峙と、他者との関わり
——糖尿病をめぐる会話と関係性
1 第三者の介在の中で形作られるインタビュー
2 断片的なもの
2-1 私(筆者)による物語化——アンクル(58歳男性)の事例
2-2 断片的に表れる
3 他者の語りと病いの経験の構築
3-1 煩わしさと安寧
3-2 生じたことをやり過ごす
4 断片をつなぎ合わせる——事例分析
4-1 シヴァさん(49歳男性)の事例とアシャさん(48歳女性)の事例
4-2 ソバさん(75歳女性)の事例
4-3 ドゥルガさん(49歳女性)の事例
4-4 ニムバハドゥールさん(51歳男性)の事例
4-5 ネットラさん(45歳男性)の事例
5 不確かさや偶発性への対処、そして会話
5-1 出来事・身体・病いの複層制
5-2 身体への〈不器用な〉配慮
5-3 断片的な語りの効果
5-4 病いの不確かさを共有する関係
コラム 8 ラームデーヴのヨーガ教室
第5章 身体をめぐる交渉
——内分泌科専門クリニックの事例
1 内分泌科専門クリニックの患者たち
1-1 クリニック概要
1-2 患者概要と糖尿病患者
2 待合室でのやりとり
3 診察室でのコミュニケーションの実際
3-1 医師と議論する
3-2 代わりに語り始める誰か
3-3 何度も繰り返し語る
4 医療従事者の反応と解釈
4-1 指導と批判
4-2 倫理的な態度とジレンマ
4-3 看護師の態度
5 身体をめぐる会話と交渉
コラム 9 「ミラウヌ(milaunu)」と「アフノマンチェ(aphano manche)」
終章 病いの会話と「共に生きる」こと
1 ネパールにおける二型糖尿病をめぐる不確かさの様相
2 〈不器用な〉配慮と意思の問題
3 病いの会話——不確かな世界を「共に生きる」希望
4 おわりに——病いと不安の闇の中、そしてその先
参考文献
謝辞
索引
1 ある老婆の言葉
2 ネパールの糖尿病と不確かさ
3 「村人」言説と糖尿病の経験
4 病いの会話——「病いの語り」からの跳躍
5 調査概要と構成
第1章 「壊れている(bigreko)」とは何を意味するか
——ネパールにおける生物医療の略史と現状
1 ネパールにおける生物医療の略史
1-1 ネパール生物医療施設の草創期(1846年〜1950年)
1-2 保健医療と開発援助1——施設建設・感染症対策(1951年〜1970年)
1-3 保健医療と開発援助2——プライマリー・ヘルスケア(1971年〜1989年)
1-4 商業主義的な生物医療の拡大(1990年〜)
2 生物医療をめぐる制度
2-1 公的医療施設とコミュニティ・ヘルスワーカー
2-2 医療従事者と医学教育
2-3 薬剤供給
2-4 新たな保健医療制度——国民健康保険と連邦制
コラム 1 疾病構造と転換
コラム 2 KC医師の医療改革運動
第2章 病院・薬局での「すれ違い」
——生物医療施設におけるの人々の経験
1 トゥルシプール市と医療
1-1 トゥルシプール市概要
1-2 医療の歴史と現状
2 トゥルシプール市における生物医療施設と患者の経験
2-1 公立生物医療施設
2-2 私立生物医療施設
2-3 医療を求めた移動
3 生物医療従事者/施設側の事情
3-1 医師を取り巻く労働環境
3-2 社会関係
3-3 診療の場における検査優先主義
3-4 治療と転院
4 私立薬局の状況と糖尿病薬
4-1 バザールの薬局概要
4-2 薬局と糖尿病薬
4-3 薬を出す人
5 薬局での交渉と移動
5-1 処方箋なしの購入
5-2 処方箋を越えて
5-3 薬をめぐる移動
6 日常の経験を構成する一要素としての生物医療
コラム 3 人民戦争とトゥルシプール
コラム 4 カルテと入院
コラム 5 糖尿病治療をめぐるお金
第3章 食事と薬をめぐる身体感覚と実践
——経験によりつくられる糖尿病
1 ネパールにおける糖尿病の現状と専門家の説明
1-1 ネパールの糖尿病に関する調査と治療施設
1-2 糖尿病の分類
1-3 専門家たちの解釈と説明
2 食べ物と病気
2-1 食べ物の捉え方
2-2 病気の原因と治療としての食べ物
3 薬剤の捉え方
3-1 安全な薬を探す
3-2 副作用(side effect)を手掛かりに
3-3 副作用は何をもたらすか
3-4 薬とケミカル
3-5 薬剤に含みこまれる社会関係
4 経験によりつくられる糖尿病
4-1 言葉・意味・繋がり
4-2 病因論
4-3 症状
コラム 6 食観念
コラム 7 アーユルヴェーダ
第4章 病いの不確かさへの対峙と、他者との関わり
——糖尿病をめぐる会話と関係性
1 第三者の介在の中で形作られるインタビュー
2 断片的なもの
2-1 私(筆者)による物語化——アンクル(58歳男性)の事例
2-2 断片的に表れる
3 他者の語りと病いの経験の構築
3-1 煩わしさと安寧
3-2 生じたことをやり過ごす
4 断片をつなぎ合わせる——事例分析
4-1 シヴァさん(49歳男性)の事例とアシャさん(48歳女性)の事例
4-2 ソバさん(75歳女性)の事例
4-3 ドゥルガさん(49歳女性)の事例
4-4 ニムバハドゥールさん(51歳男性)の事例
4-5 ネットラさん(45歳男性)の事例
5 不確かさや偶発性への対処、そして会話
5-1 出来事・身体・病いの複層制
5-2 身体への〈不器用な〉配慮
5-3 断片的な語りの効果
5-4 病いの不確かさを共有する関係
コラム 8 ラームデーヴのヨーガ教室
第5章 身体をめぐる交渉
——内分泌科専門クリニックの事例
1 内分泌科専門クリニックの患者たち
1-1 クリニック概要
1-2 患者概要と糖尿病患者
2 待合室でのやりとり
3 診察室でのコミュニケーションの実際
3-1 医師と議論する
3-2 代わりに語り始める誰か
3-3 何度も繰り返し語る
4 医療従事者の反応と解釈
4-1 指導と批判
4-2 倫理的な態度とジレンマ
4-3 看護師の態度
5 身体をめぐる会話と交渉
コラム 9 「ミラウヌ(milaunu)」と「アフノマンチェ(aphano manche)」
終章 病いの会話と「共に生きる」こと
1 ネパールにおける二型糖尿病をめぐる不確かさの様相
2 〈不器用な〉配慮と意思の問題
3 病いの会話——不確かな世界を「共に生きる」希望
4 おわりに——病いと不安の闇の中、そしてその先
参考文献
謝辞
索引