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タイの近代政治は苦難の歴史であった。立憲革命以降,実にクーデターが13回,その都度憲法が破棄され新憲法が制定された。本来,立憲主義は民主主義の「質」を高めるために導入されるはずである。しかし新興国では,それが大衆による政治的要求を抑え込むために導入されている。大衆のパワーが既得権益層の危機感を煽り,「立憲主義」の名を借りて強化された司法が民主主義を脅かしているのである。立憲主義を謳って制定された憲法が民主主義を破壊する,現代政治のパラドックスを鋭く抉り出す。
第19回東南アジア史学会賞
『東南アジア研究』58巻1号、121-123頁、評者:加藤和英氏
『アジア経済』Vol.63 No.3(2022.9)、69-72頁、評者:浅見靖仁氏
『アジア経済』Vol.63 No.3(2022.9)、69-72頁、評者:浅見靖仁氏
外山 文子(とやま あやこ)
筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授 京都大学博士(地域研究)
三重県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業,神戸大学大学院国際協力研究科国際協力政策専攻博士前期課程修了,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員PD,京都大学東南アジア地域研究研究所連携講師,立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員を経て,2019年7月より現職。専門はタイ政治,比較政治学。
<主要著書>
『21世紀東南アジアの強権政治――「ストロングマン」時代の到来』(共編著)明石書店,2018年。「タイにおける半権威主義体制の再登場――連続性と不連続性」『競争的権威主義の安定性/不安定性(日本比較政治学会年報第19号)』ミネルヴァ書房,84―116頁,2017年。「タイ立憲君主制とは何か――副署からの一考察」『年報 タイ研究』第16号,61―80頁,日本タイ学会,2016年。「タイにおける体制変動――憲法,司法,クーデタに焦点をあてて」『体制転換/非転換の比較政治(日本比較政治学会年報第16号)』ミネルヴァ書房,155―178頁,2014年。「タイにおける汚職の創造――法規定を政治家批判」『東南アジア研究』第51巻1号,109―138頁,京都大学東南アジア研究所,2013年。
筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授 京都大学博士(地域研究)
三重県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業,神戸大学大学院国際協力研究科国際協力政策専攻博士前期課程修了,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員PD,京都大学東南アジア地域研究研究所連携講師,立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員を経て,2019年7月より現職。専門はタイ政治,比較政治学。
<主要著書>
『21世紀東南アジアの強権政治――「ストロングマン」時代の到来』(共編著)明石書店,2018年。「タイにおける半権威主義体制の再登場――連続性と不連続性」『競争的権威主義の安定性/不安定性(日本比較政治学会年報第19号)』ミネルヴァ書房,84―116頁,2017年。「タイ立憲君主制とは何か――副署からの一考察」『年報 タイ研究』第16号,61―80頁,日本タイ学会,2016年。「タイにおける体制変動――憲法,司法,クーデタに焦点をあてて」『体制転換/非転換の比較政治(日本比較政治学会年報第16号)』ミネルヴァ書房,155―178頁,2014年。「タイにおける汚職の創造――法規定を政治家批判」『東南アジア研究』第51巻1号,109―138頁,京都大学東南アジア研究所,2013年。
プロローグ 民主主義への不信感は民主主義の限界なのか?
序章 タイ民主化を問う意義
1 なぜ今,民主化が問われるのか
2 理論的視座―立憲主義への再注目と政治の司法化
3 立憲主義と民主主義:タイ公法学者の論争
第1部 1990年代以降の憲法改革:契機と意図
第1章 二つの憲法―1997年憲法と2007年憲法―
1 タイ民主化と憲法の歴史―1932年立憲革命から1991年クーデタ
2 憲法改革の起点―争点の変化
3 1997年“人民”憲法制定の背景と理念
4 2006年クーデタと2007年憲法制定
5 1997年憲法と2007年憲法―民主化と非民主化?
第2章 政治改革運動再考―タイ「立憲主義」とは何か―
1 アモーンの「立憲主義」
2 民主主義発展委員会の構想
3 1997年憲法起草委員会
4 2007年憲法起草委員会
5 大衆への恐怖と憲法擁護規定
第2部 憲法改革と民選権力
第3章 憲法改革と執政権
―タイ憲法における“国の基本政策方針”の政治的意味―
1 タイ国内における「国の基本政策方針」に関する議論
2 タイ憲法における「国の基本政策方針」の変遷
3 内閣(執政権)への影響―施政方針演説の変化
4 タイ憲法「国の基本政策方針」の特徴
5 民主主義を抑え込むタイ立憲主義
第4章 憲法改革と立法権
―抑え込まれるタイ立法権 選挙制度改革の分析―
1 1991年憲法の改正:選挙制度改革の始まり
2 1997年憲法・2007年憲法による選挙制度改革
3 1998年政党法・2007年政党法の特徴
4 1998年選挙法と2007年選挙法の特徴
5 選挙制度改革がもたらした結果
6 政党と選挙を破壊する法改正
第3部 憲法改革と非民選権力
第5章 憲法改革と汚職取締り
―汚職の創造:法規定と政治家批判―
1 汚職の法的定義の変遷
2 汚職取締り状況と問題点―資産負債虚偽報告
3 汚職取締り状況と問題点―利益相反
4 汚職の「可能性」による取締り
第6章 憲法改革と司法権
―憲法裁判所と憲法に基づく独立機関の制度的問題―
1 機関設立の経緯と制度改正
2 1997年憲法―独立機関パッケージの登場
3 2007年憲法―独立機関パッケージの強化・拡大
4 憲法裁判所・独立機関に対する検査
5 憲法裁判所・独立機関による取締り
6 裁定の中立性・公正性
7 独立機関パッケージと「法による独裁」
第7章 憲法改革と「非民選」立法権
―2007年憲法と上院 その新たなる使命―
1 上院議員の人選制度
2 上院議員選挙および任命の結果分析
3 上院の権限の変化
4 憲法改正をめぐる争い
5 憲法裁判所判決と2014年クーデタ
終章 タイ民主化と憲法改革
1 タイ国民に与えた影響
2 二つの憲法への評価とタックシン
3 タイ民主主義と国王
4 得をしたのは誰か
5 タイ「立憲主義」「法の支配」の民主化への影響
エピローグ 2017年憲法を巡る攻防とタイ民主化の未来
1 新憲法起草の目的
2 二つの憲法草案の比較
3 国民投票とワチラーロンコーン国王による修正指示
あとがき
初出一覧
参考文献
序章 タイ民主化を問う意義
1 なぜ今,民主化が問われるのか
2 理論的視座―立憲主義への再注目と政治の司法化
3 立憲主義と民主主義:タイ公法学者の論争
第1部 1990年代以降の憲法改革:契機と意図
第1章 二つの憲法―1997年憲法と2007年憲法―
1 タイ民主化と憲法の歴史―1932年立憲革命から1991年クーデタ
2 憲法改革の起点―争点の変化
3 1997年“人民”憲法制定の背景と理念
4 2006年クーデタと2007年憲法制定
5 1997年憲法と2007年憲法―民主化と非民主化?
第2章 政治改革運動再考―タイ「立憲主義」とは何か―
1 アモーンの「立憲主義」
2 民主主義発展委員会の構想
3 1997年憲法起草委員会
4 2007年憲法起草委員会
5 大衆への恐怖と憲法擁護規定
第2部 憲法改革と民選権力
第3章 憲法改革と執政権
―タイ憲法における“国の基本政策方針”の政治的意味―
1 タイ国内における「国の基本政策方針」に関する議論
2 タイ憲法における「国の基本政策方針」の変遷
3 内閣(執政権)への影響―施政方針演説の変化
4 タイ憲法「国の基本政策方針」の特徴
5 民主主義を抑え込むタイ立憲主義
第4章 憲法改革と立法権
―抑え込まれるタイ立法権 選挙制度改革の分析―
1 1991年憲法の改正:選挙制度改革の始まり
2 1997年憲法・2007年憲法による選挙制度改革
3 1998年政党法・2007年政党法の特徴
4 1998年選挙法と2007年選挙法の特徴
5 選挙制度改革がもたらした結果
6 政党と選挙を破壊する法改正
第3部 憲法改革と非民選権力
第5章 憲法改革と汚職取締り
―汚職の創造:法規定と政治家批判―
1 汚職の法的定義の変遷
2 汚職取締り状況と問題点―資産負債虚偽報告
3 汚職取締り状況と問題点―利益相反
4 汚職の「可能性」による取締り
第6章 憲法改革と司法権
―憲法裁判所と憲法に基づく独立機関の制度的問題―
1 機関設立の経緯と制度改正
2 1997年憲法―独立機関パッケージの登場
3 2007年憲法―独立機関パッケージの強化・拡大
4 憲法裁判所・独立機関に対する検査
5 憲法裁判所・独立機関による取締り
6 裁定の中立性・公正性
7 独立機関パッケージと「法による独裁」
第7章 憲法改革と「非民選」立法権
―2007年憲法と上院 その新たなる使命―
1 上院議員の人選制度
2 上院議員選挙および任命の結果分析
3 上院の権限の変化
4 憲法改正をめぐる争い
5 憲法裁判所判決と2014年クーデタ
終章 タイ民主化と憲法改革
1 タイ国民に与えた影響
2 二つの憲法への評価とタックシン
3 タイ民主主義と国王
4 得をしたのは誰か
5 タイ「立憲主義」「法の支配」の民主化への影響
エピローグ 2017年憲法を巡る攻防とタイ民主化の未来
1 新憲法起草の目的
2 二つの憲法草案の比較
3 国民投票とワチラーロンコーン国王による修正指示
あとがき
初出一覧
参考文献