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農業開発の現代史

冷戦下のテクノロジー・辺境地・ジェンダー

足立 芳宏 編

A5上製・470頁

ISBN: 9784814004294

発行年月: 2022/07

  • 本体: 4,800円(税込 5,280円
  • 在庫あり
 
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内容

冷戦体制下、人と自然のありようをテクノロジーが根底から変化させ、食と農の営みが土から遊離した。機械化・化学化と複雑に絡み合う各国の農業政策によって失われた農村の姿と翻弄される人々の経験は、戦後日本の変貌を映す鏡である。工業化ばかりが語られがちな戦後史に、農民の近代科学受容の経験と農村女性が担った役割の変化をグローバルな視点から描く。

プロフィール

【編者】
足立 芳宏(あだち よしひろ・1958年生)
京都大学大学院農学研究科教授(近現代ドイツ農業史,比較農史学)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程満期退学,京都大学博士(農学)
(主著)
『近代ドイツの農村社会と農業労働者―〈土着〉と〈他所者〉のあいだ』京都大学学術出版会,1997年
『東ドイツ農村の社会史―「社会主義」経験の歴史化のために』京都大学学術出版会,2011年

【著者紹介】
足立 芳宏(上記参照) 序章・第6章・第9章・終章

伊藤 淳史(いとう あつし・1973年生) 第1章
京都大学大学院農学研究科准教授(近現代日本農業史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程研究指導認定退学,京都大学博士(農学)
『日本農民政策史論―開拓・移民・教育訓練』京都大学学術出版会,2013年
「第2次PL480協定をめぐる日米交渉(1955~56年)―日米二国間関係を越えて」『社会経済史学』88巻1号,2022年

名和 洋人(なわ ひろひと・1971年生) 第2章
名城大学経済学部准教授(アメリカ経済論,経済政策論)
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了,京都大学博士(経済学)
「アメリカ合衆国における戦時農林資源政策―南東部における生産調整と土地利用計画を中心に」『農林資源開発の世紀―「資源化」と総力戦体制の比較史(農林資源開発史論Ⅰ)』(野田公夫編)京都大学学術出版会,2013年
「自由化と生産調整の狭間で―農業大国の展開」『現代アメリカ経済史―「問題大国」の出現』(谷口明丈・須藤功編)有斐閣,2017年

森 亜紀子(もり あきこ・1980年生) 第3章
同志社大学〈奄美-沖縄-琉球〉研究センター研究開発推進機構嘱託研究員(沖縄近現代史・南洋群島研究)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程研究指導認定退学
「北マリアナ諸島における南洋興発(株)糖業の構築過程―植民地社会に生きた人びとの側から問い直す」『農業史研究』第55号,2021年
「〈南洋群島〉という社会空間の生成―沖縄出身南洋教育世代の台頭と帝国のヒエラルキー」『歴史学研究』第1024号,2022年7月号

蘇 淳烈(소순열:ソ スンヨル・1956年生) 第4章
韓国全北大学名誉教授(近代韓国農業史)
京都大学農学研究科博士後期課程修了,京都大学博士(農学)
『近代地域農業史研究』(朱奉圭との共著)ソウル大学出版部,1996年
『農業技術と韓国文明』(韓国科學文明21号)(廉定燮との共編)トゥルニョク,2021年
(第4章翻訳)

小谷 稔(こだに みのる・1992年生) 第4章
京都大学農学研究科博士後期課程在籍。韓国・高麗大学校民族文化研究院客員研究員(植民地朝鮮の農業史・農民生活史・農業教育史)
「植民地朝鮮における農業補習学校の展開とその実態」『朝鮮史研究会論文集』第57集,2019年
「戦時期朝鮮における農業教育と朝鮮人農村青年」『朝鮮学報』第257輯,2021年

大瀧 真俊(おおたき まさとし・1976年生) 第5章
名城大学経済学部准教授(日本経済史,農業史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程研究指導認定退学,京都大学博士(農学)
『軍馬と農民』京都大学学術出版会,2013年
「軍馬資源開発と東北馬産―軍需主導の東北「開発」と一九三〇年代の構造強化」『東北地方「開発」の系譜―近代の産業振興政策から東日本大震災まで』(松本武祝編)明石書店,2015年

野間 万里子(のま まりこ・1979年生) 第7章
大阪樟蔭女子大学学芸学部ライフプランニング学科准教授(近代日本畜産史・食生活史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程研究指導認定退学,京都大学博士(農学)
「滋賀県における牛肥育の形成過程―戦前期,役肉兼用時代の肥育論理」『農林業問題研究』178号,2010年
「帝国日本における青島肉・朝鮮牛の受容」『農業史研究』第49号,2015年

番匠 健一(ばんしょう けんいち・1981年生) 第8章
広島国際学院大学情報デザイン学部准教授(歴史社会学・地域社会学)
立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程,立命館大学博士(学術)
『戦後史再考―「歴史の裂け目」をとらえる』(西川長夫・大野光明との共編著)平凡社,2014年
「境界領域における「移民」と「植民」―近現代北海道史からの視点」『移民研究年報』26(日本移民学会編)2020年

徳山 倫子(とくやま りんこ・1988年生) 第10章
京都大学農学研究科研究員,国立歴史民俗博物館共同研究員,京都大学・近畿大学非常勤講師(近代日本の農村女性史・農業教育史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了,京都大学博士(農学)
「1920-30年代における県農会立女学校の指導理念と教育内容」『農業史研究』第54号,2020年
「昭和初期農村の「模範処女」たちの自己語り―県農会立女学校の生徒・卒業生作文に見る規範意識と「少女文化」」『無数のひとりが紡ぐ歴史―日記文化から近現代日本を照射する』(田中祐介編)文学通信,2022年

岩島 史(いわしま ふみ・1985年生) 第11章
京都大学人文科学研究所人文学連携研究者(ジェンダー史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程研究指導認定退学,京都大学博士(農学)
『つくられる〈農村女性〉―戦後日本の農村女性政策とエンパワーメントの物語』有志舎,2020年
「農村女性政策によるジェンダー構築の重層性―高度経済成長期の京都府久美浜町を事例に」『農業史研究』第50号,2016年

安岡 健一(やすおか けんいち・1979年生) 第12章
大阪大学大学院人文学研究科准教授(日本近現代史)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了,京都大学博士(農学)
『「他者」たちの農業史―在日朝鮮人・疎開者・開拓農民・海外移民』京都大学学術出版会,2014年
「「個」の歴史から地域を見る―「自分史」が問い直すもの」『飯田市歴史研究所年報』16号,2019年

目次

はしがき

序 章 「土とテクノロジー」の深い転換点
―グローバルな比較農業史視点からの冷戦期「開発主義」批判の試み
[足立芳宏]
第1節 20世紀中葉の「現代農業革命」
    ―「土とテクノロジー」の深い転換点
第2節 冷戦下における世界の農業・食糧体制
    ―フード・レジーム論を手がかりとして
第3節 「辺境地」の農業開発・農村建設事業―戦時から戦後へ
第4節 農村社会における農業技術・生活技術の革新と受容
第5節 本書の課題と構成

第I部 食と農の技術開発―冷戦下の東アジアとアメリカ―

第1章 アメリカ農産物の日本市場開拓計画
―小麦とコメからみる1950年代
[伊藤淳史]
第1節 アメリカ余剰農産物供与をめぐる先行研究
第2節 MSAからPL480へ
    ―アメリカ余剰農産物処理政策の転換
第3節 アメリカ小麦の日本市場開拓活動とその評価
第4節 アメリカ産米の日本市場開拓構想の挫折
第5節 アメリカ食糧援助政策研究への含意―むすびにかえて

第2章 アメリカのTVAによる窒素肥料の開発と普及
―民間企業への無償技術移転と州農業機関の活動を中心に
[名和洋人]
第1節 化学革命とアメリカ農業
第2節 TVAによる化学肥料三要素の開発と普及
第3節 農場への化学肥料の導入
第4節 化学肥料の開発と普及にみるTVAの意義と限界

第3章 戦後沖縄 せめぎあう人びとの生存戦術
―農業研究指導所・普及事業の主導権をめぐる論争に着目して
[森亜紀子]
第1節 ミシガン・ミッションの普及事業構想
第2節 琉球政府・農林水産協会・市町村会・農業研究指導所の抵抗
第3節 琉球大学教授陣の論理と帝国経験
第4節 農業試験場・普及事業の二重化

第4章 韓国における近代農業技術の変容
―「統一稲」の開発・普及過程を中心に
[蘇淳烈(日本語訳 小谷稔)]
第1節 農業技術革新の二つの時期
第2節 植民地朝鮮における農業技術の研究と普及
第3節 朴正煕政権下における統一稲の開発・普及と誘発的効果
第4節 二つの時期の共通性
    ―国家主導の農業開発をいかに超えるか

第II部 土とテクノロジー―辺境地からモデル農村へ―

第5章 帝国日本の崩壊と戦後開拓
―軍馬補充部跡地を焦点として
[大瀧真俊]
第1節 「土地」の歴史からみる戦後開拓
第2節 緊急開拓事業と軍馬補充部用地
第3節 三本木開拓事業と軍馬補充部三本木支部
第4節 川南開拓事業と軍馬補充部高鍋支部
第5節 満洲農業移民と戦後開拓事業を結んだ「人」
第6節 「土地」の状態と入植の成否

第6章 酪農家になるということ
―上北パイロットファーム入植者の戦後経験
[足立芳宏]
第1節 忘れ去られたもうひとつのパイロットファーム
第2節 戦後開拓から機械開墾へ
    ―上北パイロットファーム事業の概要
第3節 協同主義と個別経営のあいだ
    ―東北町のPF入植者の戦後経験
第4節 存続と崩壊のあいだ
    ―六ヶ所村の上北PF入植者の戦後経験
第5節 「辺境」からモデル農村へ
    ―上北PFで酪農家になるということ

第7章 「殿様開拓」から酪農専業経営の成立まで
―根釧パイロットファーム初期入植者の経験
[野間万里子]
第1節 日本における草地利用酪農と根釧パイロットファーム
第2節 根釧パイロットファーム前史
    ―「最後の入植地」根釧原野
第3節 根釧パイロットファーム事業計画の変遷とその問題点
第4節 計画と実態のあいだ―一農家の経営資料から
第5節 入植初期における営農状況
第6節 専業的酪農経営の成立
第7節 草地利用酪農という技術体系の形成と入植者の経験

第8章 北海道総合開発と地域社会
―根釧パイロットファームの再編と自衛隊基地の誘致
[番匠健一]
第1節 北海道における農業開発と「軍事化」
第2節 根釧原野における戦後開拓事業と引揚げ者
第3節 世界銀行による開発援助と根釧パイロットファームの停滞
第4節 新たな国営開拓パイロットファーム計画と自衛隊基地の誘致運動
第5節 自衛隊基地誘致運動の加速と戦後開拓入植地の階層問題
第6節 根釧パイロットファームの再編成と地域社会

第9章 西ドイツの「辺境」農村開発と農民入植事業
―エムスラント開発計画:1950-1962
[足立芳宏]
第1節 エムスラント開発とは
    ―農民入植史から農業構造政策へ
第2節 エムスラント開発計画の形成と事業内容
第3節 泥炭地開墾・入植事業とエムスラント農村の社会問題
第4節 入植者の割当てをめぐる対立
    ―難民の帰農志向と土着農村の土地返還要求
第5節 国有地入植事業のミクロ史
    ―「ニーダーランゲン・オーバーランゲン入植地区」の事例
第6節 エムスラント開発計画の歴史的特徴

第III部 農村のテクノロジー受容―科学知・教育知とジェンダー―

第10章 農村女性への教育と裁縫
―大阪府北部における新制高校定時制分校家庭科に着目して
[徳山倫子]
第1節 第二次大戦後の2つの転換点
    ―「洋裁ブーム」と戦後教育改革
第2節 大阪府立春日丘高等学校の4分校について
第3節 分校家庭科の設置
第4節 分校家庭科への要望
第5節 授業内容
第6節 卒業後の展望―職業世界への参入と地域社会の変容
第7節 「洋裁ブーム」がもたらしたもの
    ―生活技術のための裁縫教育の終焉

第11章 農村における生活の改善と家電の導入
―女性らしさの変容に着目して
[岩島 史]
第1節 家庭電化製品の導入からみえる冷戦とジェンダー
第2節 1950-60年代における農村女性の労働
第3節 農家への家電導入を可能にしたテクノロジーシステム
第4節 農村における生活の改善と家庭電化製品の導入
第5節 女性らしさの変容と「家」の継続

第12章 農業機械の受容と女性たちの健康学習
―長野県下伊那郡松川町の事例から
[安岡健一]
第1節 機械化の社会史
第2節 地域社会の変容と下伊那の社会教育
第3節 農業機械の受容とその影響
第4節 女性たちの学習とその広がり
第5節 「生活」の内実を問う意義

終 章 冷戦下の農業・農村開発の歴史的理解に向けて
[足立芳宏]
第1節 本書で明らかになったこと
第2節 モデル農村建設―国営農業開発事業の歴史的評価
第3節 社会主義における農業・農村開発事業
    ―東ドイツを中心に
第4節 1950/60年代から1970/80年代へ
    ―農業開発の再定義?

編者あとがき
English Summary
索引
著者紹介
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