シリーズ群集生態学



体裁

  • A5判並製

価格

  • 各巻2900円(税別)

配本間隔

  • 偶数月15日頃

刊行にあたって

 この地球上の数多くの生物のどれ一つとして、単独で暮らしているものはいません。生きるために他の生物を食べ、餌をめぐって競争しあい、互いに助けあい、というように生物と生物はさまざまな関係で結ばれており、これらの関係が組み合わさって生物群集が形作られています。これまでの精力的な研究によって、生物群集の成り立ちやその生態学的な意義について数多くの発見が生まれました。他方、生態学の広い分野において、生物の生理や行動、進化、個体群動態、個体数と分布、食物網、物質循環、生物多様性などいろいろなトピックが取り上げられ、研究され、私たちの理解は大きく進みました。しかし、20世紀の生態学では、これらの課題は、個体、個体群、生態系といった個別の分野で考えられてきたため、生物群集といかに「繋がって」いるかという視点が希薄でした。
 現在、世界の至るところで生物多様性の危機が叫ばれています。ある生物の絶滅を考えてみましょう。それはある地域の個体群の消滅から始まります。これは、地域個体群に特有の遺伝的な多様性の喪失にほかなりません。一方、個体群の消滅のメカニズムは、生物の個体数がどのように維持されているかという個体群生態学の中心的な課題です。地域個体群の消失は、それとさまざまな関係で繋がっている他の生物とのネットワークの消失でもあります。さらに、その生物が重要な捕食者であったなら、生態系の物質循環のあり方をも大きく変えてしまうでしょう。つまり、生物多様性の問題に本格的に向き合うためには、個別の分野を超えた幅広い見方が必要です。
 そもそも、生物多様性がどのような仕組みで維持され、創り出されているかを理解せずして、生物多様性を保全することは困難でしょう。では、いま何が求められているのでしょうか。私たちは、20世紀を通して細分化してしまった生態学の統合が必要であると考えます。そのためには個別の分野をいかに繋ぐかという視点が大事です。たとえば、進化という生物の最も基本である現象について、これまでの生態系生態学はほとんど無視してきました。生物進化は生態系生態学が明らかにしなければならない課題、たとえば生態系の物質循環に何の役割もはたしていないのでしょうか? そんなことはありません。最近になって、生物の進化が物質循環を大きく変える可能性が指摘されています。進化の視点を取り入れることによって、生態系生態学の新たな発展が期待されているのです。さらに、進化をいち早く取り入れた個体群生態学や群集生態学との接点を見出すことができ、それらを繋ぐ意義が明らかになるでしょう。
 現在の群集生態学は、生物群集の構造や生物種間のネットワークだけでなく、構成種の個体群の時間的・空間的なダイナミクスはもとより、共進化の考え方の発展に伴い生物進化の視点を積極的に取り入れつつあります。他方、食物網アプローチによる物質循環の理解を通して、生態系生態学の発展に大きな貢献をはたしてきました。このため、進化生物学から生態系生態学を統合する新たな枠組みを創り出す役割が期待されています。
本シリーズは、群集生態学の最新のトピックスの紹介だけでなく、これまで他の分野が向き合ってきたさまざまな課題に迫ることにより、生物群集の考え方がいかに大きな広がりを持つかを浮き彫りにします。とくに、生物群集がはたす「インターフェース」の役割に焦点をあて、最新の知見に基づき、群集生態学の新たな発展の方向性と課題を探ることを目指しています。このような新たな取り組みは始まったばかりですが、それに呼応して群集生態学の考え方も大きく変わろうとしているのです。
 本シリーズが、生態学・進化学・保全生物学に関心を持つ若い世代に対して、群集生態学の面白さと奥の深さをアピールし、日本においてオリジナリティーの高い生物群集の研究ができる知的基盤を提供できることを願っています。