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互酬性と古代民主制

アテナイ民衆法廷における「友愛」と「敵意」

栗原 麻子 著

A5上製・654頁

ISBN: 9784814002504

発行年月: 2020/04

  • 本体: 5,800円(税込 6,380円
  • 在庫あり
 
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内容

古代のアテナイ(アテネ)は訴訟社会であった。リュシアス、イサイオス、デモステネス等の『弁論集』を読むと、財産をめぐる争いのように今日と変わらぬ一面と同時に、一方でそこで繰り広げられる係争の内容は必ずしも自明ではなく、弁論の当事者たちが社会にあたえる恩恵の品定めなど、今日では理解しにくい面も持っていた。一見、審議とは無関係にみえる社会の相互扶助的なネットワークの存在を明らかにした、民主制下の古代社会の構造を知るための必携書。

書評

『西洋史学』272(2022)、97-99頁、評者:桜井万里子氏
『西洋史論集』第60号、69-72頁、評者:内川勇海氏

プロフィール

栗原 麻子(くりはら あさこ)

大阪大学大学院文学研究科教授
1995年京都大学文学研究科博士後期課程指導認定退学。京都大学博士(文学)。専門は古代ギリシア史。

主な著書・論文
‘Personal Enmity in Attic Forensic Speeches’, Classical Quarterly, 2003, 53. 2;「古代ギリシアの社会と生活」(服部良久・南川高志・山辺規子共編著『大学で学ぶ西洋史 古代・中世編』2006年,ミネルヴァ書房);「民主制下アテナイにおける「おんな男(ホ・ギュンニス)」と「男のなかの男たる女(ヘ・アンドレイオタテ)」(2014年,『西洋古代史研究』14);「ギリシアの世界像――ヘロドトスのジェンダー認識と異民族観を中心として」(秋田茂・永原陽子ほか編著『「世界史」の世界史』2016年,ミネルヴァ書房)。

目次

凡 例

序論部 互酬性を飼いならす
はじめに
 本書の目的
 法制定者ソロンと前四世紀の司法システム
 本書の構成
第一章 アテナイ史と互酬性――アルカイックな痕跡かヘレニズムの先駆けか
 第一節 互酬性概念の有用性
 第二節 非対称の互酬性
 第三節 古典期アテナイにおける互酬的秩序
 第四節 競争的価値観と協調的価値観
 第五節 公共奉仕と寄付
 第六節 クセノス慣行の場合
第二章 友愛とポリス――アリストテレス『ニコマコス倫理学』
 第一節 フィリアーと正義
 第二節 フィリアーと共同体
 第三節 フィリアーについての先行研究
 第四節 キモンの果樹園とクリトンの犬
第三章 大きすぎるポリスの小さな法廷――民衆法廷の社会的性格
 第一節 疑似的対面社会としてのアテナイ法廷
 第二節 社会のなかの法
 第三節 法の共有
 第四節 アテナイ法廷における法解釈
  事例1 ソロンの無遺言相続の法
  事例2 悪口(カケーゴリアー)の私訴(ディケー)
  事例3 違法提案の公訴
 第五節 市中の法
 第六節 市民裁判員の社会構成
おわりに

第一部 公的言論のなかの血縁ネットワーク
はじめに
第四章 家族の肖像――前四世紀アテナイにおける法制上のオイコスと世帯
 はじめに
 第一節 問題の所在
  1.一九世紀的パラダイムと父系血縁集団としてのゲノスの否定
  2.ゲノスから世帯へ
 第二節 法廷弁論におけるオイコス
  1.アテナイ法はオイコスを構成単位としていたか
  2.総体的な概念としてのオイコス
  3.弁論におけるオイコスの継承と「空のオイコス」
  4.オイコスの継承と個別性
  5.「空のオイコス」をめぐる法文
 第三節 オイコスと女性
 第四節 オイコスと世帯――家族の肖像
  1.法廷弁論における家族の親愛
  2.墓碑にみる家族の親愛
 おわりに
第五章 血縁と友愛――イサイオスの描く親族争議
 はじめに
 第一節 オイコスをとりかこむもの
 第二節 法律にみる親族関係
 第三節 イサイオスにみる親族関係
  1.史料の性格
  2.親族の相互関与
  3.第九番弁論『アステュフィロスの家産について』の場合
  4.父方親族と母方親族
  5.女性による紐帯
 第四節 父系複合家族と単婚小家族
 おわりに――フィリアーと血縁
第六章 獲得されるものとしての親族関係――前四世紀におけるソロンの遺言の法の運用
 はじめに――感情の歴史学へ向けて
 第一節 ソロンの遺言の法
 第二節 オイコス(家)の独立性
  1.イサイオス第六番弁論の場合
  2.時間軸にそった存在としてのオイコス
  3.社会的単位としてのオイコス
  4.オイコス運営における家族的連帯
 第三節 オイコスをとりかこむもの
 第四節 法廷弁論の家族たち
  1.アルキアデスの遺産相続の場合
  2.イサイオス第一番弁論『クレオニュモスの家産について』の場合
  3.リュシアス第三二番弁論『ディオゲイトン告訴』の場合
 おわりに

第二部 公と私のはざまで
はじめに
第七章 ヘタイレイアーの信義をめぐって――前四一五年のアンドキデス
 はじめに
 第一節 ヘルメス柱像破壊事件とアンドキデス
  1.事件の経過
  2.史料
 第二節 ヘルメス柱像破壊事件の社会的イメージ
  1.寡頭派イメージの背景
  2.被疑者の政治的性格
 第三節 事件当事者たちの群像
  1.年齢
  2.デーモス・部族
  3.親族
 第四節 事件の目的とヘタイレイアーの信義
 第五節 密告へいたる過程
 おわりに
第八章 被害者のための報復――「何人でも欲するもの」による訴追の運用
 はじめに
 第一節 民衆訴追制度
  1.「何人でも欲するもの」による訴追に関する先行研究
  2.ヒュブリスの公訴
  3.虐待の公訴(グラフェー)とエイサンゲリアー
 第二節 殺人訴訟の当事者たち
  1.殺人にたいする復讐意識
  2.非血縁者のための復讐意識
  3.プラトンにおける、殺人の公訴と親疎の論理
 おわりに
第九章 法廷における動機としての個人的敵意――公私の分離
 はじめに
 第一節 リュシアス弁論の場合
 第二節 デモステネス、その他の弁論家たち
 第三節 明かされる敵意――援助弁論の場合
 第四節 アイスキネスとデモステネス――周知の敵意
第一〇章 法廷弁論における訴訟の動機と私的敵意――公私の連続
 はじめに
 第一節 「何人でも欲するもの」による訴追と報復
  1.殺人にかんする訴訟
  2.虐待のエイサンゲリアー
  3.ヒュブリスの公訴
  4.プロボレーの場合
 第二節 「何人でも欲するもの」による訴追における復讐の拡がり
  1.裁判員による報復
  2.『テオクリネス弾劾』の場合
  3.『ネアイラ弾劾』の場合
  4.『アルキビアデスの戦列離脱告発』の場合
  5.個人的敵意の濫用

第三部 私人たちの世界
はじめに
第一一章 イディアイ・グラファイ(私的な公訴)――デモステネス『メイディアス弾劾』の場合
 はじめに
 第一節 『メイディアス弾劾』
 第二節 三つの想定問答
  1.第一の想定問答
  2.境界のはざま
 第三節 第二および第三の想定問答――プロボレーにおける復讐
 第四節 私的な公訴(イディアイ・グラファイ)における報復
 おわりに
第一二章 アプラーグモシュネー(静謐主義)と市民性――リュシアスの描く「私人」たち
 はじめに
 第一節 裁判嫌いのトポス
 第二節 役職にもとづく訴訟への関与
 第三節 私事への逃避とその限界
 第四節 ふたつのアプラーグモシュネー
 おわりに
第一三章 ポリスへの参画――遊女ネアイラと市民女性
 はじめに
 第一節 訴訟の背景
 第二節 市民権賦与とネアイラによる市民権詐称
 第三節 アステーとしての特権
 第四節 聖なる特権――祭祀への参加
 おわりに――女性のための一票

第四部 友愛共同体としてのポリス社会
はじめに
第一四章 恩恵と哀れみ――法廷における感情
 はじめに
 第一節 仮想的な法廷シーンにおける哀れみ
 第二節 弁論における嘆願
  1.嘆願の表現――被告側弁論
  2.哀れみの否定――原告側弁論
  3.デモステネスとアイスキネス
 第三節 哀れみの互酬的秩序
 第四節 法と哀れみ
 第五節 哀れみとジェンダー
  1.男らしさと哀れみ
  2.女・子どもへの哀れみ
 おわりに
第一五章 『レオクラテス弾劾』――リュクルゴスと互酬的秩序
 はじめに
 第一節 ポリスを守護する三要素
 第二節 報復のレトリック
 おわりに
第一六章 リュクルゴスとヒュペレイデス――私人にたいするエイサンゲリアー(弾劾裁判)をめぐって
 はじめに
 第一節 エイサンゲリアー関連法
 第二節 私人にたいするエイサンゲリアーと裏切り
 第三節 リュクルゴスとヒュペレイデス
 第四節 先行する事例
 おわりに
第一七章 「禍根を残さない」誓い――前四〇三年の和解と市民共同体の再生
 はじめに
 第一節 和解儀礼の形式
  1.ボエドロミオン月一八日の入市行進
  2.和解協定と誓い
  3.「禍根を残さない」誓いの起源について
 第二節 忘却の条件
  1.ケオス島の場合
  2.ディカイアの場合
  3.テゲアとテロスの場合
 第三節 恩讐のかなたに
  1.「禍根を残さない」誓いと法制度の整備
  2.民衆法廷と誓いの再解釈
 おわりに

結論部

初出一覧
あとがき
用語解説
参考文献表
索引(人名・出典・事項)
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